「人生100年時代」が叫ばれるようになったのも束の間、研究者の間では、「人間が120歳まで生きる」というのはわりと現実的だと考えられているという。世界中で活発化する「老化研究」の最前線を探る。
日本人の死因第1位であるがん。厚生労働省によれば、年間30万人以上が亡くなっているという。早期発見・早期治療がカギとなる。
◆進む早期発見技術に治療法が追いつけばがんは怖くない!
今、「リキッドバイオプシー」というがんの早期発見に繋がる検査方法が注目されている。「北青山Dクリニック」の阿保義久院長が話す。
「がん細胞が体内に発生した際に血液中に流れ出す微量物質を検出する検査です。これにより多くのがんの発生リスクが調べられます。採血だけで済み、X線・内視鏡など従来の検査のような負担がありません。診断が難しい膵臓がんの早期発見も期待されています。ただ、保険が適用されないので検査費用が高額になってしまう点や、検査結果でがんのリスクが高くても画像検査で特定できない際の対処法には課題が残ります」
もっと手軽にがん検査ができるように研究を進めているという。
「リキッドバイオプシーの研究が進めば、健康診断とセットでがん検査ができるようになったり、体温を測るくらいの手軽さで検査ができるようになると思います。そうなれば、生活習慣改善の必要度がわかり、超早期での治療も可能となる。がんを生活習慣病のように管理していくことができるようになるかもしれません」
現在は保険適用外の検査だが、今後さらに手軽に受けられる存在になってほしいものだ。
◆日本で始まった画期的な治療法「光免疫療法」
また、世界に先駆けて’20年から日本で始まった画期的ながんの治療法がある。それが「光免疫療法」だ。どのようなものなのか。
「光免疫療法とは、がん細胞のみに反応する薬を静脈注射で投与し、薬ががんに十分集まったところで近赤外線を照射してがん細胞を破壊する治療法です。条件つきですが’20年9月に世界に先駆けて日本で承認され、保険診療として治療を受けられます。副作用もほぼなく、病院の導入コストや治療費も従来の治療と比べると相当安く、患者に優しい治療法です」
そう話すのは、光免疫療法を生み出したアメリカ国立がん研究所の主任研究員、小林久隆氏だ。目立ったリスクもなく、非常に優れた治療法に思えるが、解決すべき課題もあるという。
◆がんの3大治療法と並ぶ治療法になり得る
「まだ発展途上の治療法であることは確かです。現在使っている薬品が反応する抗体はがん細胞全体の30%ほどしかなく、残りの70%は光免疫療法で治療ができません。そして、この療法によってがん細胞は相当数減少させられるものの、完全に取り除いて完治させられるのは全体の10%ほどです。もちろん、すべてのがん細胞を完全に破壊できるように世界中で研究と治験が進められています」
現在、光免疫療法が認可されているのは日本のみ。しかも条件つきであるため、治療を受けられる患者も限られている。しかし、「この治療法はがん治療を大きく進歩させる」と小林氏は続ける。
「体への負担の軽さや治療費の安さ、そしてこれまでの治験と治療結果を見ても、光免疫療法はがんの3大治療法(外科・放射線・抗がん剤)と並ぶ治療法になるはずです。むしろ、すべてのがんを治療できるようになれば、『まずは光免疫療法を』という運びになると思いますよ」
光免疫療法が文字通り、がん患者を照らす光になる日はそう遠くないのかもしれない。前出の阿保氏も「医療が進歩することでがんとの付き合い方は変わる」と話す。
「今後はリキッドバイオプシーや、小林先生の光免疫療法よりも優れた検査や治療が生まれる可能性だってあります。私たちも遺伝子治療というこれからのがん治療の臨床研究を進めています。治療法や確度の高い検査の研究が進むことで、がんそのものはなくせないにしても、がんと共存しながら一生をまっとうすることが可能になるかもしれません」
【「北青山Dクリニック」院長 阿保義久氏】
東京大学卒。がんの早期発見、遺伝子治療のほかに下肢静脈瘤や鼠径ヘルニアなどの日帰り手術、再生医療などにも取り組む最先端クリニックを運営する。メディア出演や著書も多数
【医学博士 小林久隆氏】
アメリカ国立がん研究所・主任研究員。大学時代から30年越しのがん研究を経て、光免疫療法を開発。著書に『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』(光文社新書)などがある
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[120歳まで生きる]―