「業者が間に合わなかった」「朝の身支度に3~4時間」…高市早苗首相の1年を振り返って気付いた“論点すり替え”の共通項

高市早苗首相が就任して1年。新聞各紙が検証記事を展開している。産経新聞は「手堅い人事」「柔軟に政策実現」と1面トップで評価。一方、毎日新聞は社説で「独善の限界が見えてきた」と論じた。同じ1年間でも、ずいぶん見え方が違う。
G7のオンライン首脳会議を欠席した理由を問われると…
では、ここでは、1年間で印象に残った高市氏の「言葉」に注目してみよう。そこから見えてくる高市論もあるはずだ。
まず最近だと「業者が間に合わなかった」。
10月2日、高市首相はG7(主要7カ国)のオンライン首脳会議を欠席した。国会で理由を問われると、開催時間が直前までわからず、通信回線の接続・設定を依頼する業者の手配が間に合わなかったと説明した。
しかし、不思議なことがある。首相は今年3月、同じ公邸からG7のオンライン会議に出席していた。8月には自身のXで、オンライン会議の設備が整っていると紹介していた。それなのに、なぜ今回は参加できなかったのか。業者の手配が原因なら、官邸の危機管理体制が問われることになる。
そもそも首相の説明には、いろいろな事情が登場する。開催時間が直前までわからなかった。回線の準備が間に合わなかった。代理出席でもよいとされた。
この感じ、どこかで見たことがある。
首相就任直前の「奈良のシカ」発言だ。
昨年の自民党総裁選で、高市氏は奈良のシカを蹴る外国人がいると訴えた。根拠を問われるとSNSで広がる「不安感」や「怒り」を持ち出した。ところが首相就任後の国会では、自分もシカを蹴る人物を注意した経験があると語った。外国人の話だったはずが、最後は自分の体験談になっていた。肝心の根拠はどうなったのだろう。
思えば、首相就任前にも似たようなことがあった。2023年、放送法をめぐる総務省の行政文書について、高市氏は自身に関する記述を「捏造」と断じた。国会では野党議員に「もう質問しないでほしい」とまで発言し、後に撤回した。
強い言葉を発した後、その説明や対応が新たな問題を呼ぶ。今回が初めてというわけではないのだ。
言葉といえば、簗和生農相を「本当にダサい」と評したのも印象的だった。
道路予算削減発言などで批判を浴びた簗氏を続投させ、結局は更迭した高市首相。自民党重鎮には「長引かせてダサいのは誰なのか」と皮肉を言われている(琉球新報・10月15日)。強い言葉が自分に返ってきた格好だ。
「化粧に時間がかかる」発言も…
閣僚への言葉では、もう一つ「私に恥をかかせるな」も忘れられない。
今年2月、高市首相は国会で、米国との関税交渉を担当する赤沢亮正経済産業相にそう伝えたと明かした。トランプ大統領との首脳会談を控え、「私がトランプ氏と堂々と渡り合えるように働くのが赤沢氏の仕事だ」とも述べた。
国会答弁でも軽口で場をにぎわせたいのだろうか。しかし、そうした隙に本質が見えることもある。最近の「化粧に時間がかかる」発言もそうだ。
10月14日の衆院予算委員会で、首相の国会出席のあり方を問われた高市氏は、男性首相より朝の入浴、朝食の支度と後片付け、化粧などに「3~4時間余分に時間を使っているかもしれない」と語った。問われていたのは首相の生活時間ではなく、国会改革という制度の話だったはずだ。いつの間にか個人の事情に話が移っていた。
次の言葉は「悲願」である。
高市首相は食料品の消費税減税を「私自身の悲願」と語った。ところが今年2月、公式サイトから約1000本の過去のコラムが削除された。直前にはプレジデントオンラインが過去のコラムを調べ、「消費税減税は悲願」という発言を裏付ける記述が見当たらないと報じていた。事務所はサイトの見直しと説明している。
過去の言葉が消えた一方で、選挙中にはこんな言葉も発信していた。
「逃げません」である。
高市首相は今年2月の衆院選で、自民党の公式YouTubeを通じてそう訴えた。ところが選挙中、NHK「日曜討論」を欠席した。首相は持病の関節リウマチによる手の痛みを理由に挙げたが、週刊文春は2日前から欠席の調整が進んでいたとの証言を報じた。問われていたのは病気そのものではなく、欠席に至る経緯の説明だった。
一方、読売新聞によると、欠席した2月1日は選挙期間中で首相のXのフォロワーが最も増えた日だった。同情や擁護も広がったという。
公の場での説明には疑問が残る一方、SNSでは支持が集まる。高市首相にとって、これは一つの「成功体験」になったのではないか。そう考えると、その後のSNS重視の姿勢も理解できる。5月には内閣広報室が首相の動向を発信するXアカウントを試行開設。6月からは佐伯耕三内閣広報官の名前を前面に出し、報道への反論も含めて発信を続けている。なるほど、「SNS固め」に力が入るわけである。
内閣広報室は来年度予算に72億円を要求
東京新聞は、国会審議や記者会見など双方向のやりとりには後ろ向きだと批判される首相について、SNSなら「自身に都合の良い話題を一方向で発信でき、都合の悪い話題は避けられる」と指摘した(10月16日)。
ちなみに内閣広報室は来年度予算に今年度の約10倍となる72億円を要求。うち約59億円を政策アピール動画などに充てる計画だという。使うのは税金である。
さて、国内ではSNSを通じて自分の言葉を思い通りに発信できても、外交では発した言葉が相手国との関係を左右する。最後に紹介するのは、昨年11月の台湾有事答弁である。
日経新聞は「『戦略的あいまい』貫けず」と報じた。歴代の首相があえて曖昧にしてきた一線を越える答弁によって、日中関係は悪化した。しかし注目したいのは、国内では「質問したほうが悪い」と擁護する声が広がったことだ。質問は、首相就任前の持論を確認するものだった。政府の事前資料も、具体的な答弁を避ける方針だったという。
首相は後に、従来の政府の立場を超えたと「受け止められたこと」を反省点に挙げた。質問した側が悪い。受け止めた側が悪い。そういえば、G7欠席の説明でも業者の手配が間に合わなかったという話が出てきた。本人の説明にも、支持者の擁護にも「他責」がにじむ。
それでも、高市首相のはっきりした物言いは支持される。しかし、言葉が強いことと、説明に筋が通っていることは別だ。
さらに注目はそのあとだ。強い言葉を発するたび、説明や対応が新たな問題を呼んできた。
言葉を追っていたら、結局は政治姿勢の話になった。やはり神は細部に宿るのか。
(プチ鹿島)

タイムズカー情報漏えいで集団訴訟へ…サイト登録者は10万人以上 参加予定者「免許証でお金を借りられる怖さ」も…見舞金3000円に「納得いかない」

カーシェアリングサービス「タイムズカー」で、会員の免許証情報など個人情報が漏えいした問題で、集団訴訟への参加を呼びかけている弁護士が26日に会見し、見舞金が3000円では少なすぎるなどと主張しました。
「タイムズカー」の利用者から相談を受けているという弁護士が、26日に開いた会見で主張したのは…
パーク24など集団訴訟へ 牧野裕貴弁護士
「3000円という金額を見たときに、私も非常に低すぎるんじゃないか、やはりこれでは全然足りないのではないかと。今後ずっとなりすましの危険性というものがある中で、果たして精神的な損害が3000円で済まされていいのかと」
「タイムズカー」などを展開する「パーク24」が支払うとしている見舞金、3000円相当についてです。
先月、660万件を超える個人情報の漏えいを発表した「パーク24」。そのうち免許証画像などおよそ146万件が流出したことが確認されています。
「パーク24」の見舞金は、免許証情報などの流出が確認された人に限られたものだったため、今回、弁護士は、そのほかの個人情報の流出についても補償が必要だと主張。1人あたり最大で5万円が妥当だと「パーク24」などを相手取り提訴する方針です。
サイトの登録者は現時点で10万人以上。街で「news zero」が出会った人は…
“免許証データが流出”集団訴訟に参加予定
「免許の情報が出ている可能性があるというメールだけいただいた」
免許証のデータが流出したため集団訴訟に参加するといいます。
“免許証データが流出” 集団訴訟に参加予定
「報道で集団訴訟を弁護士さんが開設したというのを伺って、一応やっておくかと。この時代、電話番号とか誕生日は流出しちゃっているのかなと覚悟していろんな会員アプリを登録している部分もあるので、あやしいと思ったら(電話に)でないとか対策取れるけど、免許証とかでお金を借りられたり何かを登録されたりという怖さはある。免許の画像が流出してしまっていると、金額的には(3000円では)納得いかない」
パーク24など集団訴訟へ 牧野裕貴弁護士
「今回の集団訴訟は日本における個人情報を取り戻す闘い。企業に求められる防御・情報管理の水準というところも、今までと一緒ではいけないのではないかと考えております。AI時代における情報管理の水準というところをしっかり考えつつ、今までよりも、より高度な情報漏えいに対する防御の注意義務の基準というのが必要になってくると考えております」
「パーク24」は見舞金の金額については「お客様が取り得る各種対応や、それに伴うご負担等を総合的に勘案したもの」だとした上で、「今後、もし被害などがあれば、個別の状況確認の上で適切に対応させていただきます」とコメントしています。
サイバー攻撃による被害が相次ぐ中、「ギフティグループ」はインターネット上でeギフトが不正に発行されたと発表しました。およそ5億5000万円の損失が見込まれますが、客が保有するeギフトは、不正使用されていないとしています。
また、メール配信サービスを手がける「ユミルリンク」は、のべ5162万件の情報が漏えいしたおそれがあると発表しました。
高市首相は26日に行われた関係閣僚会議で、来週中をめどに緊急対策パッケージを取りまとめることを指示しました。その上で「あらゆる対処オプションを戦略的に選択し実行する」などとして断固とした措置を取る考えを強調しました。
(10月26日放送『news zero』より)

交番や110番で「ショウリンジ」と叫ぶいたずら、相次ぎ少年少女26人摘発・補導「SNS見てまねした」

110番通報や交番で「ショウリンジ」と叫ぶいたずらが9月中旬から相次ぎ、兵庫県警は約1か月間で少年、少女計26人を摘発・補導した。SNS上で拡散している動画の影響とみられ、県警は「いたずらで必要な助けが遅れ、命に関わる恐れもある。絶対にまねしないでほしい」と呼びかけている。
県警によると、「ショウリンジや」などと叫ぶ110番通報は約40件あった。交番では、無断で侵入し、無人の室内にジュースをまき散らしたり、「ショウリンジ」と叫んで逃げたりする行為が多発した。今月20日までに軽犯罪法違反で摘発・補導した26人は中学生が中心で、小学校低学年もいた。
SNS上では、こうした行為を「少林寺レーシング」と称して撮影した動画が、9月頃から拡散していた。少年らは県警に「おもしろそうだからやった」「SNSを見てまねをした」と話したという。

高市首相G7欠席が招く最悪事態…EUにEV優遇策「日本車除外案」、実施なら国産自動車メーカー大打撃

いまさら、お願いしても手遅れなのではないか。
高市首相は28日に行われるドイツのメルツ首相との会談で、EUが予定している電気自動車(EV)の優遇策について、修正を求める方針だ。日本製のクルマを「優遇枠」から除外しないように要請するという。
ドイツとフランスは16日、EUによるEVの優遇策から日本製を除外する案で合意している。
合意案は、EVへの補助金や税優遇を受ける条件として、EU域内の組み立てや、一定割合以上の欧州製部品の使用を義務づけるものだ。EVだけでなくハイブリッド車も対象になる。年内にも欧州議会で採決され、最終決定される見通しだ。
もし、この合意案が実施されたら、日本の自動車メーカーが打撃を受けるのは間違いない。
EVは価格が高いため、補助金や税優遇がなければ、大幅な販売減となるのは避けられない。事実上、EU市場から締め出されることになる。
日本にとってEUは、年間約200万台を販売し、国内から約60万台を輸出している重要な市場だ。EU市場を失ったら、日本経済への影響も大きい。
「自動車産業は、日本経済を支えている大黒柱。輸出の4番バッターです。就業人口も550万人というボリュームです。EU市場への輸出がストップしたら、国内工場の稼働が落ち込み、雇用不安につながりかねません」(霞が関関係者)
■G7欠席にフランスが激怒
問題は、高市首相がドイツ首相に談判したところで、果たして日本車が「優遇枠」に修正されるのか、ということだ。まったく取り合ってもらえない恐れがあるという。高市首相が「G7」を欠席したことにフランスが激怒しているというのだ。
「高市首相が、2日に開かれたG7のオンライン首脳会議を欠席したことに、議長国のフランスはカンカンだといいます。トランプ米大統領も参加したのに、日本だけが官僚による代理出席でした。2023年以降に開かれた過去8回のオンライン会合には、いずれも日本の総理は出席しています。しかも、当日、高市首相は公務はなく、麻生副総裁と会食していた。それだけでもG7を軽視した振る舞いです。議長国のフランスを激怒させたのは、欠席した理由を『議長国のフランスが当日急きょ設定したから』と、したことです。フランスは事前に通知していたといいます。高市首相の失礼な態度は、ヨーロッパ各国にも伝わっている。高市首相がドイツのメルツ首相に、日本車を優遇して欲しいとお願いしても、応じてもらえないのではないでしょうか」(経済評論家・斎藤満氏)
高市首相はG7を欠席した理由を「欧米のディーゼル価格などが議題で、出席する類いのものではなかった」と、日本とは関係ない会議だと強弁していたが、日本の国益に直結する会議だったのではないか。
◇ ◇ ◇
高市首相の外交オンチによる失策はこれだけではない。【もっと読む】高市首相の日米首脳会談「蜜月アピール」は突っ込みどころ満載…トランプ大統領は「心ここにあらず」でも詳しく報じている。

岩屋元外相への「異例の厚遇」の闇…中国が求めた「合格点の答案」に透ける“高市首相孤立作戦”

2026年9月末、日本企業の役員ら約50人の訪中団を率いた岩屋毅元外相は、中国外交トップの王毅氏や何立峰副首相と会談し、日本からの訪問に対する中国当局者の応対としては、約1年間で最も高位のものだったと香港紙に報じられた。だが中国側の発表によれば、王氏は台湾をめぐる日本の指導者の言動を正すよう迫り、国貿促などに日本の「正しい選択」を後押しする役割まで期待した。米シンクタンク掲載の論考が、中国による日本孤立化の動きを指摘するなか、元外相への異例の厚遇は誰の得になるのか?
【写真】習近平が激怒したとも…中国側の許可を得ずに高市首相がXに投稿した1枚
米シンクタンク掲載の論考「中国、日本を孤立させるキャンペーンを開始」
2026年9月27日、日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長として日本企業の役員ら約50人の訪中団を率いて北京に入った岩屋毅氏は、翌28日に中国外交トップの王毅氏と、29日に何立峰副首相に会った。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は9月29日付で、日本からの訪問に対する中国当局者の応対としては、約1年間で最も高位のものだったと書いている。
元外相が中国で高官との会談の機会を得た。だが私が気になっているのは、その厚遇が結局のところ誰の得になるのか、という一点である。
中国は日本のどの人物を選んで会い、誰の方針を変えさせたいのか。会ってもらえた政治家ばかり見ていると、その向こうにいる高市早苗首相への圧力が視界から抜け落ちてしまう。
米シンクタンクのジェームズタウン財団は10月14日、マシュー・フルコ氏の論考を掲載した。題は「中国、日本を孤立させるキャンペーンを開始」(原題:PRC Launches Campaign to Isolate Japan)。
中国が日本国内の高市氏の対中政策に反対する政治家らに近づく動きを孤立化工作の一環として整理し、岩屋氏の名前も挙げている。日中間の合意の原点に立ち返るべきだという岩屋氏の発言については、中国側の主張をなぞったものだと評した。
中国と話ができる政治家や経済人を日本国内に増やす
SCMPも同じ訪問について専門家の見立てを載せている。高官が出てきたからといって関係改善の兆しと受け取るのは早計で、中国が計算ずくで相手を選ぶ「選択的関与」と見るべきだという。
日本全体と仲良くするのと、日本の中の特定の誰かに高官との会談の席を用意するのとでは、話がまるで違う。
そう考えれば、岩屋氏を高官が迎えながら高市氏には厳しい注文をつけるという中国の振る舞いに、矛盾はない。政権には批判を浴びせ、ほかの政治家や経済団体には会談の席を用意する。
中国と話ができる政治家や経済人を日本国内に増やしておき、その人たちを通じて政権に方針転換を迫ろうとする。私はこうした動きを「高市首相孤立作戦」と呼んでいる。
「合格点の答案」という言葉に表れた中国側の要求
手がかりは会談後の公式発表に残っている。9月28日の王毅・岩屋会談について、中国外交部は、台湾問題をめぐる日本の指導者の言動を早急に正すべきだと王氏が述べたと発表した。
続けて、国貿促などに対し、日本が正しい選択をするよう働きかけてほしいと求めたという。相手は貿易団体である。その貿易団体に、日本側の政策対応を変えるよう働きかけることを期待している、と私は読む。
経営者たちを迎えた中国側は、その場を日本の政治への要求を伝える機会にした。経済団体が相手だったからこそ、これは軽く流せない。
発表文には、日本が「正しい選択」をし、「合格点の答案」を示すよう、国貿促などに後押しを期待するくだりまである。原文の「合格答卷」という言葉で、中国側が求めているのは、自国の要求に沿った対応なのだろう。
その物差しに合わせて日本を動かしてくれ、と日本の政治家や企業団体に期待しているように読める。商談相手として歓迎するだけなら、答案など求める理由がない。厚遇の意味は、この一語にほぼ尽きていると私は読んでいる。
岩屋氏に問いたいのは、中国側の要求にどう答えたかだ
中国側の発表によると、岩屋氏は、国貿促として両国関係を日中間の四つの政治文書の初心と原点に立ち戻らせるよう働きかける、と述べたという。中国が何を求め、岩屋氏がどう応じたかが、中国側の言葉で世界に流れている。
元外相であれば、伝えられ方まで点検すべきだろう。自分の考えと食い違うなら訂正を申し入れればいい。会談の席で何を話したかで政治家の仕事が終わるわけではない。
過去の合意を守ることと、現職首相の言動を中国の注文どおりに改めさせることは、別の問題である。前者を唱えていれば後者を求められたときの返答になる、というものでもない。日中友好を大切にするという言い方で、日本の政治にどう関わるつもりなのかという説明を済ませることはできない。
王氏に会うのがどれほど難しかったか、そこでどれほど丁寧に扱われたか岩屋氏が誇るべきなのはそこではない。
問われるべきなのは、日本側への政治的な働きかけをどう受け止め、何と答えたのかだ。企業の利益を守るための活動と、中国が望む日本の政策変更との境目を、どこに引いたのか。公表された中国側の発表だけでは見えない、この点を知りたい。
同じ方向の働きかけは岩屋氏だけに向けられたものでもない。中国外交部は9月15日の会見で、前日に劉彬外務次官補が日中友好議員連盟の若手議員団と会った際、高市首相の台湾をめぐる言動こそが日中関係に深刻な困難をもたらしている最大の問題だと伝えたと明かした。
明報社説「日本の実業家を通じて高市氏に圧力」
議連には、関係を立て直すための条件と環境を整えるよう求めたという。
若手議員団にも、元外相が率いる経済団体にも、中国は同じ方向の働きかけをしている。高市氏の言動が問題だと告げ、日本からの来訪者に関係修復の役目を期待する。
発表を並べると、接触を重ねながら一つの方向へ押していく姿が浮かぶ。岩屋訪中を、1人の政治家が勇気をもって関係改善に動いた話として片づけるわけにはいかない。
香港紙・明報の10月5日付社説の見出しはもっとあけすけだった。民間を通じて高市早苗氏に圧力をかけるという趣旨の文言を掲げている。「以民促官」、つまり民間から政府を動かすという意味だ。翌6日の英文欄も、日本の実業家を使って高市氏に圧力をかけるという題を掲げている。
岩屋氏の訪中後も経済界との接触は続く。SCMPは10月17日、11月の経団連訪中団について、中国側が人数を5人から約20人に増やすことを認めたと、共同通信の報道を引いて伝えた。
訪問団は約20人に拡大する見通しだという。記事では、経済面での影響力を使って日本政府に圧力をかけているという専門家の見方も紹介された。
経済交流が政治的圧力の経路になる懸念
政府への圧力は緩めないまま、企業とは話を進める。この組み合わせに注意が要る。企業が中国との取引を続けたいと望めば、政治家はその声に耳を傾ける。そこに中国の政治的要求を乗せ、日本政府まで持ち帰らせる。経済交流を政府を動かす道具にする、という読み方である。
ただし、中国側がそう期待することと、日本側がその役割を引き受けることは別だ。企業が商売を守ろうとするのは当たり前のことだ。経営者は社員の生活を背負っている。
ただ、その期待を預かって中国へ行く政治家には、企業が困っていることと日本政府が間違っていることを混同しない責任がある。取引が止まって困るからといって、中国が求める政治的譲歩が正しくなるわけではない。
そこを取り違えると、企業のために始めた働きかけが、いつのまにか中国の要求を国内に通す役回りに変わってしまうおそれがある。日本企業を守ることと、日本の首相に中国への歩み寄りを迫ることが、ひとつに重なってしまうのだ。外相まで務めた政治家に求められているのは、この混同を防ぐことだ。
高市政権の政策に反対なら、自分の理由と根拠を示して日本の有権者を説得すればいい。中国の高官に会えたことは、日本国内でその主張が正しい証拠にはならない。外国政府が歓迎する政治家と批判する政治家を色分けしたからといって、日本の側までその色分けに従う義理はない。
日本の「正しい選択」を後押ししてほしいという要求
フルコ氏自身は、中国による日本孤立化の試みは成功していないと評価している。それでも、日本側が厚遇をどう受け止めるかは軽い問題ではない。会ってもらえたことをそれだけで外交成果として扱えば、中国に選ばれた政治家こそが関係を改善できるという見方を、日本人自身が広めることになる。
国貿促の説明では、岩屋氏は経済協力や邦人の安全確保、地方交流の推進などを要請したという。日本側が求めたことも踏まえて、訪中を評価する必要がある。
そのうえで、岩屋氏にさらに説明してほしいのは、同じ訪問で持ちかけられた政治的な働きかけをどう扱ったのかという点だ。会談の格の高さは、この問いへの答えにならない。
中国側の発表文には、日本が「正しい選択」をするよう後押ししてほしいという趣旨がはっきり残っている。これを読めば、元外相への厚遇をそれだけで素直に喜ぶ気にはなれない。
相手がなぜ自分を歓迎するのかを見極めずに、国益を守れるはずがない。高市氏を批判するか支持するかを論じる前に、外国政府が日本国内の誰に働きかけ、何を変えようとしているのかを見抜くこと。外交を担った政治家にとって、それは最低限の務めである。
文/小倉健一

実績ゼロの日本には無理→2兆円計画で採用…オーストラリア海軍が惚れた「日本の護衛艦」が持つ世界初の技術

日本の防衛産業に希望の灯をともす大型案件がようやく契約にこぎつけた。今年4月18日、オーストラリアを訪問した小泉進次郎防衛大臣は、メルボルンに停泊中の護衛艦「くまの」艦上でマールズ副首相兼国防相とともに、新型FFMをベースとする次期汎用フリゲート3隻の契約締結を記念する式典に臨み、両大臣は協力覚書(「もがみメモランダム」)に署名した。
新型FFMとは、海上自衛隊が計画中の「もがみ」型護衛艦の能力向上型のこと。共同通信によれば、オーストラリア政府は次期汎用フリゲートプログラムにおいて、この最新鋭艦11隻に今後10年間で最大200億豪ドル(約2兆2000億円)を投じる計画だ。
最初の3隻の日本国内での建造については三菱重工業が受注しており、29年12月までの1番艦納入を目指す。4隻目以降は現地で建造される計画になっている。
日本政府は1967年以来、「武器輸出三原則」の下で武器の輸出を長らく原則的に禁止していた。しかし販売先が国内に限られると防衛産業は成長が止まり、技術開発が困難になるうえ、高コスト化して防衛予算を圧迫してしまう。
そこで政府は2014年、「防衛装備移転三原則」の下で武器の輸出や国際共同開発を認める方針に転換。今回の新型FFMの移転は規模としても過去最大の防衛装備品。国内防衛産業にとって待望の大型案件だ。
この大型案件を推進するプロジェクトチームを防衛省の海上自衛官側(制服組)で率いたのは、防衛装備庁でプロジェクト管理総括官を務める佐々木透吏海将補だった。
佐々木海将補は誕生日の関係で18歳になる直前に海上自衛隊に入隊。いちばん下っ端の階級である2等海士から自衛官人生をスタートさせた「叩き上げ」だ。射撃員としてオペレーションの経験を積んだ後、試験を受けて幹部自衛官に。職種は水上艦艇だったが、途中艦艇のシステムを開発する配置にも就きながらキャリアを積んだ。56歳で晴れて海将補に昇任している。
佐々木海将補が海上幕僚長(海上自衛隊の制服組トップ)と防衛装備庁長官(防衛装備品の開発・調達・移転を統括する防衛省外局の長)に呼ばれ、オーストラリアからフリゲート移転の打診が来ていると聞かされたのは、2024年だった。
日本は防衛装備移転三原則への転換後、レーダーを外国に移転したことはあっても、艦艇を移転したことはない。制服組のリーダーに任じられた佐々木海将補は、さっそくチームをつくって情報収集に当たった。
「事務方のほうも防衛省から優秀な課長級やオーストラリア通がアサインされて、官はワンチームで情報収集しました。それで見えてきたのは強い競合の存在です。水上艦は建造できるメーカーが限られていて、韓国のハンファ、ヒュンダイ、スペインのナバンティア、ドイツのTKMSがオーストラリアの次期汎用フリゲートプログラムにエントリーをしていました。世間ではドイツ、韓国が有利で、日本は無理だという見方が一般的でしたね」
しかし、佐々木海将補は「請け負ったからには勝つつもりだった」と情報収集を続けた。根底にあったのは、オーストラリアのニーズを満たせば移転実績のない日本でも戦えるという思いだ。
プロジェクトチームはネットワークを駆使してオーストラリア側のニーズを探り、新型FFMを建造する三菱重工業に伝えて対策を練り上げていった。その結果、下馬評を見事に覆し、2025年8月には新型FFMの採用がオーストラリア政府から発表されたのだ。
オーストラリアのニーズを満たす新型FFMの特徴とは何だったのか。まず注目したいのは「省人化」だ。佐々木海将補は、「省人化は世界の海軍共通の悩み」と明かす。
「先進国の軍隊はどこも隊員のリクルートに苦労していて、オーストラリア海軍にとっても省人化はマストでした。他の候補国のフリゲートの乗員は約100人以上ですが、新型FFMの乗員は約90人。ワッチ(当直)は30人体制なので、3交代で90人いれば運用可能です。これは従来の護衛艦の約半分。少ない乗員で運航できる点が、オーストラリア海軍の方向性とマッチしたのではないかと思います」
米防衛調査会社フォーキャスト・インターナショナルの比較では、競合各艦の乗員は韓国の忠南級が約120人、大邱級が約140人、スペインのAlfa 3000が約100人、ドイツのMEKO A-210が約120人とされる。いずれも新型FFMの約90人を上回っており、その省人化ぶりが際立つ。
新型FFMが省人化を極めたのは、海上自衛隊も乗員不足に悩んでいたからだ。稼働できる艦艇が少なくなって船繰りが悪くなると、現場の負担は重くなる。護衛艦「あまぎり」の艦長を務めていたこともある佐々木海将補は「365日のうち約200日は出航していて、乗員には本当に苦労をかけた」と当時を振り返る。乗員が休みを取りにくい状況を改善するため、新型FFMは省人化設計に振り切ったのだ。
省人化の方向性は二つある。一つは、一人で何役もこなせるようにシステムで対応すること。もう一つは、そもそも仕事を減らすことだ。
たとえば従来の護衛艦は係留中の横揺れを防ぐ双錨泊やリダンダンシー(冗長性)のために艦艇前部に錨を二つ、後部に副錨を一つ備えていた。新型FFMを前部錨一つ、副錨を廃止して簡易な設計にして、錨用具の整備等の作業負担を減らした。また、航行を指揮する艦橋は通常8人の配置だが、新型FFMは4人で運用できるようにしている。
注目は統合化されたCIC(戦闘指揮所)だ。まず艦橋は視界確保のため大きな窓を持ち、戦闘時に狙われやすい。実際、2001年には海上保安庁の巡視船「あまみ」が不審船から銃撃を受け、乗員が負傷する事件も起きている。
新型FFMは、被弾に備えて船体内部に置かれたCICにも操艦機能がある。360度の映像を見ながら操艦が可能で、艦橋の人員が退避して艦橋が無人になっても航行できる。またそれまで機関をコントロールする操縦室など複数に分かれていた区画(部屋)をCICに統合化することによって有人区画を減らし、無人区画を増やすことによってできる限り多くの自動消火システムを採用した。
「消火作業は人手が必要で、危険も伴います。しかしそもそも人がいなければ、火災発生の区画を閉め切って酸素をなくして消火できる。そこまで徹底した自動消火システムを採用した護衛艦は、新型FFMが世界で初めてです」
統合化されたCICと艦橋の無人化は、省人化だけでなく、人命を守ることを最優先にするという運用思想の表れでもある。
「帝国海軍は、大事な熟練乗員の命を失い過ぎました。海上自衛隊は何があっても乗員の命を守って陸に返さないといけません。フリゲートは災害派遣や平時に警戒監視する船で、ずっと戦闘をするわけではない。攻撃されたら反撃して離脱する、いわゆる『逃げる船』でいい。いざというとき艦橋を無人にしても航行できるようにしたのも、乗員をひとりも失いたくないからでした」
人命最優先の設計は他にもある。フリゲートにとって最大の防御は敵に見つからないことであり、新型FFMはステルス性能を徹底的に高めた。機密ゆえに具体的なことを教えてもらえなかったが、ステルス性に対するオーストラリア海軍の反応は上々だった。実際、佐々木海将補のカウンターパートである海軍少将は、最後まで競ったドイツの護衛艦との違いを議会で説明する際、こう語ったという。
「少将は娘さんが2人いるのですが、『もし娘たちが海軍に入隊するなら、親としては日本の新型FFMに乗せたい』と説明したそうです。子どもを思う親の気持ちは万国共通。新型FFMは、その気持ちに応えられるだけのステルス性の高さを備えています」
オーストラリア海軍が評価したであろう新型FFMの特徴は他にもある。拡張性の高さだ。防衛装備品は進化を続けているが、従来は新しい技術を取り入れるたびに装備を一からつくり直さなければならなかった。しかし、防衛装備品の刷新には膨大なコストや時間がかかる。この問題を新型FFMはシステムアップデートで解決した。
「新型FFMは単なる船ではなく、システム・オブ・システムズです。船体は40年持つようにつくってあって、その間の進化はコンバット・マネジメント・システム(戦闘管理システム)などシステムを更新することで対応できます」
iPhoneにたとえるなら、スマホ本体を買い替えなくてもiOSのアップデートで最新の機能を利用できるのと同じだ。また、システムはオープンアーキテクチャーの仕様になっている。
iPhoneでアプリ事業者がアプリを提供するように、オーストラリアの軍需関連会社が後からアプリケーションを提供できる。地元の産業界のビジネスチャンスにつながることもアピールポイントになった。
ほかにも、ヨーロッパ勢との違いでは艦艇の運用思想が見逃せない。オーストラリアは西にインド洋、北と東に太平洋を抱え、海軍は長距離・長期間を前提に艦艇を運用しなければならない。
その条件は、海に囲まれた日本も同じだ。新型FFMは寄港しなくても長く航行できるよう低燃費化。ヨーロッパ勢に比べ長大な航続距離は、オーストラリア海軍には魅力的に映ったはずだ。
太平洋・インド洋を中心に活動する海軍として、アメリカ太平洋艦隊の存在も無視できない。同じ海域で活動することもあって、米豪の両海軍は装備やシステムに共通するものが多い。米海軍との親和性の高さは海上自衛隊も同じ。日米豪が一体となって太平洋の安全保障を支えるという戦略上の理由からも、日本には追い風が吹いていた。
「日豪で共通の装備体系を持てば、日本の新型FFMがオーストラリアのドックで装備の修理を受けたり、逆にオーストラリアのフリゲートが日本で修理することも容易になるでしょう。オーストラリア海軍もそのメリットは理解していたと思います」
今回のオーストラリア政府による新型FFM採用は、日本にとって太平洋の安全保障強化につながる朗報だった。ただ、日本のメリットは、直接的な防衛力向上だけではない。海上自衛隊の装備を現場そして開発側から長年見てきた佐々木海将補は、今回の採用をこう評価した。
「日本の防衛産業は生産ラインの維持に苦労していました。生産ラインが維持できなくなると、技術者が他の産業――とくに民需に流出します。民需は量産を目指すので、ゲームチェンジャーになる尖った技術は官が支えなくてはならないのですが、海上自衛隊も予算に限りがあって、これまでは優秀な技術者が次々に民需に流れていく実態がありました。
艦艇は建造に関わる会社や技術者がとても多い事業で、1隻売れただけでもインパクトが大きい。今回の新型FFM移転を機に、尖った研究開発を維持して官民のデュアルユースで展開できるようになれば、日本経済の活性化にもつながります。実際、防衛産業や経済界を見ているとその雰囲気を感じます」
日豪両防衛相による「もがみメモランダム」署名の3日後、高市政権は「防衛装備移転三原則」と運用指針を改正して、これまで移転を限定的に認めてきた5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)を撤廃した。移転協定を結んだ国が対象という条件はつくものの、殺傷能力のある装備も移転できるようになり、日本の防衛産業が世界で活躍するチャンスは増える。今回の新型FFM移転は、この流れに弾みをつけそうだ。
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(ジャーナリスト 村上 敬)

だからオーストラリア海軍は「日本の護衛艦」を採用した…2兆円計画を手繰り寄せた海自隊員の「自腹の手土産」

日本の「もがみ」型護衛艦の能力向上型(以下、新型FFM)を、オーストラリアが次期汎用フリゲート艦(全11隻)として採用することが決まり、今年4月には両政府は最初の3隻分の建造契約を公表し、「もがみメモランダム」に署名した。
共同通信によれば、オーストラリア政府は新型FFMをベースにした新型艦の開発に、今後10年間で最大200億豪ドル(約2.2兆円)を投じるという。この超大型プロジェクトを日本が射止めたのは、新型FFMの特徴である「省人化」「生存性」「拡張性」が高く評価されたからだと推測される。
ただ、モノが良ければ買ってもらえるほど武器輸出の世界は単純ではない。実は日本には10年前の苦い記憶がある。2014年、政府は「防衛装備移転3原則」を閣議決定して、防衛装備品の海外移転を推進する方針に転換した。
最初のビッグプロジェクトは、日本の潜水艦「そうりゅう」型をオーストラリアに売り込むこと。安倍晋三首相(当時)の肝煎りで始まったこのプロジェクトは、当初は日本が圧倒的有利と見られていた。しかし、16年4月にはフランス案(「バラクーダ」級潜水艦をベースにした通常動力型)の採用が正式に決定。日本は受注競争に敗れてしまった。
今回、新型FFMの移転プロジェクトで制服組のリーダーを務めた佐々木透吏海将補は、「そうりゅう」型の売り込みが進んでいた2012年から2015年にかけて、海上自衛隊の艦船装備計画を担当する海上幕僚監部・艦船装備体系班長だった。「そうりゅう」型の移転プロジェクトにはタッチしていなかったが、「そうりゅう」型にリチウムイオン電池搭載を決めた当事者としてプロジェクトには注目していた。
「みんな必死にやっていましたよ。メンバーは自分の普段の仕事を持ちながら特命でアサインされた人たち。英語の資料が何もないところから、日本の規格をオーストラリアに合わせたり、向こうからの質問に随時対応していたりで、ほとんど寝ていないように見えた。フランスに決まったときはかわいそうなくらいにがっかりしていましたね」
佐々木海将補は「失注した理由はわからない」と口を濁しつつも、「日豪海軍間の絆は強い。『そうりゅう』型はオーストラリア海軍のニーズに応えられる潜水艦で、少なくとも性能でフランスより評価が低く評価されたという認識はない」と話す。
報道では、「そうりゅう」型の取得に前向きだったアボット豪首相が2015年に退陣し、ターンブル政権に交代したことが敗因の一つに挙げられた。加えて、競合がロビー活動を積極的に展開したのに対し、日本は大型装備品の移転に係る国際競争に参加した初めてのケースであり、装備移転についての経験がなかったことも指摘されていた。いずれにしても、「そうりゅう」型の売り込み失敗は、モノさえ良ければ選ばれるわけではないという教訓を海上自衛隊に残したのだった。
「そうりゅう」型の失注で得た教訓は佐々木海将補にも引き継がれた。新型FFM移転プロジェクトの制服組リーダーになると、「これは情報戦」と位置づけて、情報収集と分析のオペレーションを開始した。
情報を重視したのは、敵味方が複雑に入り乱れているからだ。護衛艦の建造は、1社がすべてを担えるものではない。たとえば船体はドイツ、戦闘システムはアメリカ、レーダーはオーストラリア、ミサイルはまた別のアメリカのメーカー、魚雷はヨーロッパ――というように、1隻に多くのメーカーが関わることが普通だ。
こうした企業のなかには、競合国――今回でいえばドイツ、韓国、スペイン――と結びつきの強いところもあれば、基本は中立的ながら、日本が受注したら自分たちのビジネスがなくなるのではないかと心配するところもある。まずはその複雑な構図を読み解く必要があったのだ。
「オーストラリアにはすでにサプライチェーンがあって、そこにいきなり日本が入ると反発を招くおそれがあります。意識したのは、敵をつくらないこと。各メーカーとは私たちもコネクションがあるので、『日本が受注したら、みなさんの仕事がなくなるどころか儲かりますよ』と説明して回りました」(佐々木海将補)
情報活動の結果、オーストラリアの防衛産業やそこに装備を納めるサプライヤーの警戒感は薄れていった。その甲斐あって、24年12月の段階で候補は日本とドイツの2カ国に絞られた。
しかし、そこから先の情報戦も熾烈だった。ロビー活動に長けたドイツ側は、メディアを巻き込んで新型FFMのネガティブキャンペーンを展開したのだ。日本の護衛艦は日本人の体格に合わせて設計されているので、ベッドが小さく居住性が悪いという記事も出た。
居住性はいいことに越したことはないが、ベッドの大きさをことさらに強調するのは難癖に近い。それでも捨て置くことはできず、日本側もメディアやシンクタンクに情報提供。
情報戦で大車輪の活躍をしたのが、岩出洋平1等海佐だ。新型FFMをオーストラリアに売り込むにあたり、かつて佐々木海将補が務めたのと同じ海上幕僚監部・艦船装備体系班長のポストに就いていた。2025年3月、その岩出1佐はオーストラリアのパースに飛んだ。護衛艦「のしろ」(「もがみ」型護衛艦3番艦)がオーストラリアとの共同訓練に参加し、その途中でパースの基地に寄港するからだ。
「次期汎用フリゲートプログラムの関係者が見学にくれば、説明する絶好の機会になります。誰が来るのかわからずに空振りに終わる可能性はありましたが、自分にできることは全部やろうと」(岩出1佐)
海上自衛隊は外国の軍隊との交流が多く、幹部自衛官はそれなりに英語を話せる。岩出1佐もそうだったが、プロジェクトチームにアサインされると、毎朝4時半に起きて出勤までの間、英会話の練習をした。プレゼンや交渉の場では通訳がつくこともあるが、自分の言葉で伝えたほうが刺さると考えたからだ。
岩出1佐がオーストラリア側との接点でよく引き合いに出した話がある。日本の新幹線だ。
「オーストラリア側がとくに気にしていたのはスケジュールでした。自分たちの欲しいタイミングで本当にデリバリーされるのかと、繰り返し聞かれました。私が納期を約束することはできませんが、代わりに『日本の新幹線は30秒遅れただけで乗客に謝罪する。そういう国民性だ』と伝えました。オーストラリアは平気で電車が30分遅れるお国柄ですから『クレイジーだ』と驚いていましたが、日本企業が納期を重視していることは伝わったのではないかと思います」
オーストラリア側にセールス活動する中で、ライバル国との違いを感じる場面もあった。海外では政策決定に関わる政治家や官僚へのロビー活動は普通に行われているが、日本側、とくに公務員である海上自衛隊にはロビー活動する発想もなく、予算も極めて限定的だ。そんな中でどのようにして相手への心遣いを示すのか、そこにも「佐々木海将補流」の工夫があった。
象徴的なのは手土産だろう。国と国との関係にとどまらず、個人の関係でも、友人の家を訪ねる時は手土産を持っていくのが心遣いというものだが、佐々木海将補はいつでも、誰に対してもそういう心遣いを忘れない人だ。例えば、日本側がオーストラリア側の関係者を訪問する際には儀礼として何か小さなプレゼントを渡すのが通例になっているが佐々木海将補は「羽田空港第3ターミナルのドン・キホーテで毎回、日本らしいお菓子を買っていた」という。ロビー活動という発想も予算も無かったが、こういうちょっとした心遣いがオーストラリア人の心を掴んだのかもしれない。
交際費などがない中でどのように交流を深めるか。世界の海軍には軍人同士の交流でチャレンジコインと呼ばれるメダルや、部隊の帽子を贈り合うカルチャーがある。ただ、毎回同じでは印象に残らない。悩んでいた岩出1佐の頭にふと思い浮かんだのは、防衛大学校からともに海上自衛隊の道を歩んできた同期、濱﨑禎史(よしふみ)2等海佐の顔だった。
「私が艦船装備体系班長に着任したとき、濱﨑から着任祝いで宅急便が届いたんです。開けてみると、新型FFMの自作プラモデル。そのときはよくできていると思っただけでしたが、約1年後に移転プロジェクトにアサインされたとき、『あのプラモデルは贈り物にぴったりだ』となりました」
そもそも濱﨑2佐はなぜ新型FFMの自作プラモデルをつくったのか。実は濱﨑2佐は小学1年生のときの誕生日に戦艦大和のプラモデルを買ってもらって以来のモデラー。つくるのは船が多く、趣味が高じて防大に入ったほどだ。隊務をこなしながら休日には好きな艦艇をつくっていたが、3Dプリンターを買ってプラモデル愛が爆発した。濱﨑2佐はこう語る。
「3Dプリンターなら自分でゼロから模型をつくれます。ちょうどそのころ新型FFMのイメージイラストが公開されたので、それを基に完成形を想像して何隻もつくりました。20隻くらい試作して自信作ができたタイミングで、岩出が艦船装備体系班長に着任したと聞いて1隻贈りました。名目は着任祝いですが、岩出から評価を聞きたかったのが本音です」
オーストラリア海軍関係者との面会を控えていた岩出1佐は、濱﨑2佐に連絡して追加で製作を依頼した。小さいモデルを手土産として渡すだけでなく、体積を8倍にした大型モデルをプレゼンの場に持っていくこともあった。
新型FFMはまだ実物がない。イメージが湧きづらい中で、濱﨑2佐がつくったプラモデルは相手の想像力を刺激した。岩出1佐は「百聞は一見に如かず。意思決定にどれだけ影響したのかわかりませんが、新型FFMの理解促進に貢献してくれたことはたしかです。公平性の確保上、意見交換は一般的な内容に終始させる必要がありましたが、だからこそ模型が彼らの視覚を刺激し、その役割を大いに果たしてくれたのだと実感しています」と証言する。
もちろん手土産としても喜ばれた。新型FFMのプラモデルは日本仕様が基本だったが、ここぞという相手にはオーストラリア海軍のカラーリングを施し、同海軍の識別マークである「赤いカンガルー」をつけた。濱﨑2佐の芸の細かさに、思わず顔をほころばせた関係者もいた。
オーストラリア政府が新型FFMを選定したことを発表したのは2025年8月。終盤はロビー活動に熱心だったドイツ有利という見方が広がっていたが、最後は自分たちの強みを真摯に訴えた日本に軍配が上がった。「そうりゅう」型の売り込み失敗から9年越しのリベンジ成功である。
現地サプライチェーンへの根回しやメディアも巻き込んだ広報、そして関係者の心をとらえた手作りの模型など、さまざまな活動が実を結んだ形だが、佐々木海将補は「環境が味方してくれた面もある。それを忘れてはいけない」と気を引き締める。
2025年2月には中国人民解放軍海軍のフリゲート、ミサイル巡洋艦、補給艦がシドニー沖を航行したとオーストラリア国防省が発表した。太平洋海域における軍事的緊張の高まりが、納期に厳格で、防衛戦略上でも緊密な関係にある日本の追い風になった可能性はたしかにある。
ただ、やるべきことをやっていたから風を逃さずに捉えられたとも言える。日本の防衛装備移転の勝ち筋は見えたのか。あらためて問うと、佐々木海将補はこう話してくれた。
「今回はオーストラリア側からの打診で始まった案件でしたが、今後は日本から相手国にセールスする機会もあるのでしょう。その場合も、まずその国が欲しいものを日本が満たせるかどうかを第一に考えないといけません。そこを確かめないまま今回と同じことをやっても、足元をすくわれる可能性は高い」
もっと景気のいい話が聞けるのかと思いきや、佐々木海将補はどこまでも慎重だった。「そもそも納品はまだ先で、今も勝利した実感はありません。赤いカンガルーがついた新型FFMが長崎(三菱重工長崎造船所)でオーストラリア海軍に引き渡されるまで、たぶんホッとできないでしょう」
この責任感こそが、日本が相手国からの信頼を勝ち取る最大の武器なのかもしれない。
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(ジャーナリスト 村上 敬)

ANA那覇発羽田行き、エンジン不具合で481人に影響 出発まで9時間近く待つ乗客も

全日空(ANA)の那覇発羽田行き便で26日、エンジンの不具合が生じ出発が大幅に遅れるトラブルがあった。ANA沖縄空港によると481人に影響が出た。
午後0時5分発の464便は、整備部品の調達が間に合わず欠航となった。乗客は午後3時発の468便へと振り分けられたが、同便も滑走路へ移動中にエンジン不具合の表示が出て整備が必要となり、機体を変更して午後7時9分に那覇を出発した。最終的には445人が搭乗した。
乗客の一人は「朝から那覇空港にいて、出発まで9時間近くも待った。予定が狂い疲れた」と話した。

茨城県教委が国に誤情報伝達 公益通報の運用状況、手続き「誤解」

公益通報制度の運用状況を巡り、茨城県教育委員会が誤った情報を国に伝達していたことが、県教委への取材で明らかになった。担当者の誤解が原因で、是正件数に間違いがあったという。
是正「31件」→実は「10件」
消費者庁は制度の活用状況を把握するため、全国の自治体を対象として定期的に照会。2006年の制度開始以降、通報や是正の件数、通報窓口の設置状況などを調べている。
茨城県教委は20年度分について、是正件数が31件だったと消費者庁に報告していたが、実際は10件だったことが判明。残る21件は是正件数ではなく、通報後の調査で不正が確認されなかった件数だったという。
「一連の流れ、正しく理解を」
毎日新聞の問い合わせなどを受けて県教委が確認したところ、誤りが判明。当時の担当者が通報から是正までの手続きを誤解したまま回答していたという。県教委に通報した経験がある元学校関係者は「これまでの対応を組織的に検証してほしい」と訴える。
制度に詳しい淑徳大の日野勝吾教授は「誤った情報は調査全体に影響する」と指摘。「国は制度の趣旨や運用方法を改めて周知し、通報から是正までの一連の流れを正しく理解してもらう必要がある」と求める。
消費者庁の担当者は「個別の事情にはコメントしないが、自治体が責任を持って報告していると考えている」と述べた。【古瀬弘治】

改正皇室典範の成立背景…高市首相の「女性天皇」阻止は日本会議などへの配慮

7月に成立した改正皇室典範が24日、施行された。これにより、旧宮家(旧皇族)の男系男子を養子として皇族に迎える制度が創設され、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する制度ができた。ネット世論を中心にずっとささやかれていたのは、改正法の成立が麻生太郎副総裁のゴリ押しということだった。麻生氏の妹は三笠宮寛仁親王の妃殿下信子さまであり、信子さま自身が宮家をもっている。また、姪である彬子女王は三笠宮当主として活躍し、瑶子女王も皇族として活躍している。麻生氏の意中の人物を、この一家の養子とし、その養子に男子が産まれれば、天皇になれる可能性がでてきたからだ。つまり“麻生氏黒幕説”である。麻生氏が改正を強固に進めたのは事実だが、成立の背景はそれだけではなかったと毎日新聞が舞台裏を解説している。安定的な皇位継承や皇族数確保策を議論するために2022年に衆参両院の各会派全体会議が設置された。その裏で2025年3月から6月にかけて、与野党第1党の代表者と衆院正副議長の4者が全体会議の円滑化のため非公式に協議。その場で、自民代表の麻生氏(当時は党最高顧問)は女性天皇を容認する発言をしていた。その4者協議では女性皇族の身分保持のみを先行して実現させることを内々で合意したが、麻生氏がその直後、養子案にこだわり始め、合意を反故にした。麻生氏を説得したのは内閣官房参与で皇室制度連絡調整総括官だった山崎重孝氏である。今年4月に全体会議が再開され、6月10日に「立法府の総意」を決定した。「女性皇族の身分保持」は与野党がほぼ一致していたが、問題は「旧宮家からの養子縁組」の方だ。麻生氏はこれに関して「特例」と認識していたが、ここでも麻生氏を説得してひっくり返したのは山崎氏だった。結果、特例法案ではなくなってしまった。山崎氏や木原稔官房長官を通じて高市政権に影響力を強めてきたのは、保守系団体の「日本会議」や「神道政治連盟」である。日本会議は以前から養子縁組の法制化を求めていた。神道関係者の中には、皇室が国民との距離を縮めることで戦前の神聖性を薄めていることに懸念する声があるという。とくに女性天皇については「世俗化だ」と批判しているらしい。高市首相の政策と符合する日本会議の方針高市首相は2月27日の衆院予算委員会で、皇位継承をめぐる皇室典範改正について「男系男子による継承を維持」との考えを示している通り、もともと男系男子に固執するイデオロギー優先の政治家だ。党内基盤の弱い首相にとって、岩盤支持層とされる保守派の支持は欠かせない。改正皇室典範の成立をゴリ押ししたのは、麻生氏よりもむしろ高市首相で、その意図は「日本会議と神社本庁の高市支持をつなぎ止めるため」だったのである。
7月に成立した改正皇室典範が24日、施行された。
これにより、旧宮家(旧皇族)の男系男子を養子として皇族に迎える制度が創設され、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する制度ができた。
ネット世論を中心にずっとささやかれていたのは、改正法の成立が麻生太郎副総裁のゴリ押しということだった。麻生氏の妹は三笠宮寛仁親王の妃殿下信子さまであり、信子さま自身が宮家をもっている。
また、姪である彬子女王は三笠宮当主として活躍し、瑶子女王も皇族として活躍している。麻生氏の意中の人物を、この一家の養子とし、その養子に男子が産まれれば、天皇になれる可能性がでてきたからだ。つまり“麻生氏黒幕説”である。
麻生氏が改正を強固に進めたのは事実だが、成立の背景はそれだけではなかったと毎日新聞が舞台裏を解説している。
安定的な皇位継承や皇族数確保策を議論するために2022年に衆参両院の各会派全体会議が設置された。その裏で2025年3月から6月にかけて、与野党第1党の代表者と衆院正副議長の4者が全体会議の円滑化のため非公式に協議。その場で、自民代表の麻生氏(当時は党最高顧問)は女性天皇を容認する発言をしていた。
その4者協議では女性皇族の身分保持のみを先行して実現させることを内々で合意したが、麻生氏がその直後、養子案にこだわり始め、合意を反故にした。麻生氏を説得したのは内閣官房参与で皇室制度連絡調整総括官だった山崎重孝氏である。
今年4月に全体会議が再開され、6月10日に「立法府の総意」を決定した。「女性皇族の身分保持」は与野党がほぼ一致していたが、問題は「旧宮家からの養子縁組」の方だ。麻生氏はこれに関して「特例」と認識していたが、ここでも麻生氏を説得してひっくり返したのは山崎氏だった。結果、特例法案ではなくなってしまった。
山崎氏や木原稔官房長官を通じて高市政権に影響力を強めてきたのは、保守系団体の「日本会議」や「神道政治連盟」である。日本会議は以前から養子縁組の法制化を求めていた。
神道関係者の中には、皇室が国民との距離を縮めることで戦前の神聖性を薄めていることに懸念する声があるという。とくに女性天皇については「世俗化だ」と批判しているらしい。
高市首相は2月27日の衆院予算委員会で、皇位継承をめぐる皇室典範改正について「男系男子による継承を維持」との考えを示している通り、もともと男系男子に固執するイデオロギー優先の政治家だ。党内基盤の弱い首相にとって、岩盤支持層とされる保守派の支持は欠かせない。改正皇室典範の成立をゴリ押ししたのは、麻生氏よりもむしろ高市首相で、その意図は「日本会議と神社本庁の高市支持をつなぎ止めるため」だったのである。