衝撃事件の核心 「クソガキ、謝れ」喫煙注意で暴行 迷惑客どう対処

JR宇都宮線の列車で1月、車内で喫煙していた男を注意した男子高校生が暴行を受ける事件が起きた。男は傷害容疑で逮捕され、高校生は重傷を負った。鉄道を舞台にした理不尽な暴力事件は後を絶たない。見て見ぬふりか、注意すべきか。「迷惑客には言っても通じない」という指摘もあるが、遭遇してしまったらどう対処すればよいのか。
車内に響く怒声
「クソガキ、謝れ」「お前、俺に喋りかけられる分際ちゃうんや」
1月23日正午ごろ、東京方面へ向かう上り列車に怒声が響いた。怒声の主は栃木県警に傷害容疑で逮捕された宇都宮市のホストクラブ従業員、宮本一馬容疑者(28)。宮本容疑者は高校2年の男子生徒(17)に車内で土下座を強要したうえで蹴り、顔面の骨を折る6カ月の重傷を負わせたとされる。
宮本容疑者が激高したきっかけは「加熱式たばこ」だった。始発の宇都宮駅から同僚と2人で乗り込んだ宮本容疑者は、優先席に座って大声で談笑してほどなく座席に寝そべり、加熱式たばこを吸い始めた。これを注意したのが、友人と4人で出かける途中の男子生徒だった。
「たばこを吸うのは、やめてもらえませんか」
こうとがめられた宮本容疑者は、起き上がって生徒に顔を近づけ威嚇。それを生徒に手で押しのけられて逆上し、腕の入れ墨を誇示するように着ていたダウンジャケットを脱ぎ捨てると、Tシャツ姿で生徒に激しい暴行を加えた。
同僚や車掌の制止も聞かず、自治医大駅でいったん下車した後も暴行。ホームには生徒の血が飛び散った。
宮本容疑者は事件後、駆け付けた同駅員らといったんは駅事務室へ向かうそぶりを見せたが、目が離れたすきに姿を消した。元の列車へ舞い戻り、都内に向かったとみられる。同日午後11時20分過ぎに捜索中の県警機動捜査隊員が宇都宮駅で宮本容疑者を発見して職務質問し、下野署へ任意同行した後に緊急逮捕した。
正当防衛を主張
〝逆ギレ〟ともいえる事件を起こした宮本容疑者は奈良県出身。捜査関係者によると、大阪や東京などの繁華街を転々とし、昨年末ごろ宇都宮へ移ってきたという。
10代の少年を暴行した背景について捜査関係者は「相手が高校生とは思わなかったようだ」と推測する。生徒の身長は約170センチの宮本容疑者より高く、事件当時は日曜日で私服姿だった。注意しても喫煙をやめない宮本容疑者の態度に、生徒の口調もきつくなったという。捜査関係者は「だからといって、許される行為ではない」と憤りを隠さない。
逮捕当初の調べに「向こうが先に手を出した。正当防衛だ」と容疑を否認していた宮本容疑者だったが、その後の調べには「頭に血が上り過ぎ、覚えていないことが多い。相手の出血を見て、やりすぎたと思った」と供述が変化。ただ「相手が先に押してきたから、やり返した」との主張は変わらず、反省や謝罪の弁は今もないという。
自分を誇示したくなる心理
鉄道での暴力事件は後を絶たない。鉄道各社が加盟する日本民営鉄道協会の調べによると、令和2年度の暴力行為の発生件数は、鉄道係員に限っただけでも377件を記録。乗客を対象にしたものを含めればさらに多くなる。
暴力事件に巻き込まれないためには何を心がけるべきか。元警視庁刑事で防犯コンサルタントの吉川祐二氏は暴力事件の犯人の特徴として「虚勢を張る」という点を指摘する。
「通常なら言葉のやりとりで済むところが、周りに人がいると興奮して暴力を振るうケースが目立つ。力がなくても自分を誇示したくなる心理がある」と公共の場という性質から犯行がエスカレートした可能性に言及する。宮本容疑者についても「周りの乗客の目により、気持ちが高ぶった可能性がある」とみる。
吉川氏は「今回の男子生徒の行動は勇敢だった」とした上で、「列車は逃げ場がなく、相手が暴力行為に出た場合に避けるのは難しい」と分析。対策としては「暴力行為に遭った場合や目撃した場合は、列車の非常通報ボタンを押してほしい」としながら「迷惑行為を見かけた場合、客同士で注意するとトラブルになりやすい。車掌など場所を管理する人に注意してもらうのが惨事を防ぐ方法になる」と語った。(山沢義徳、内田優作)