熊本市の慈恵病院が独自に取り組む「内密出産」の手続きに沿って2021年12月に10代の女性が出産した事例について、同市の大西一史市長は9日、母子の支援を巡り病院と協議を始めると発表した。市はこれまで法令に抵触する可能性があるとして内密出産を控えるよう病院に求めてきたが、望まない妊娠に悩む女性に対応する医療現場の切迫した状況を踏まえ、事実上容認する姿勢に転換した。
国内の法制度は内密出産が想定されておらず、生まれた子の戸籍の取り扱いや出自を知る権利を侵害しないかについて国は明確な見解を示していない。大西市長は「病院に慎重な対応を求めてきたが、現実に事例が起き『控えて』と言うだけでは済まない状況だ」と指摘。「母子の健康や安全を守り、(子供の)今後の養育についても行政がしっかりサポートしていく。より現実的な対応をしていく方針に改めた」と語った。
病院は19年12月、孤立出産を防ぐため内密出産に取り組むと発表した。21年12月に「出産を親に知られたくない」と希望する西日本の10代の女性が、病院の新生児相談室長にだけ身元を明かす内密出産の手続きに沿って出産。女性と血縁のない養親夫婦に実子として育ててもらう特別養子縁組を申し出て、退院した。
病院は室長以外にも身元を明かすよう説得を続けたが、女性はその後「病院が出生届を出してほしい」と希望。病院は、母親の名前を記載せずに出生届を提出した場合に法律に抵触するかどうかを熊本地方法務局に問い合わせており、10日に予定されている法務局の回答を踏まえて14日にも出生届を市に提出する。
大西市長は、出生届が提出されれば熊本地方法務局の見解を改めて確認し、受理するかどうかを判断する考えを示した。
また、大西市長は今後課題となる母親の身元情報の管理や子供への開示方法などについて病院と協議し、現行法で解決できない課題は国に対応を求める方針を表明。「現実的な対応を取るために協力をお願いしたい」と語った。
市の方針転換を受け、慈恵病院の蓮田健院長は「大西市長が決断して支援をいただけることはとてもありがたい」と語った。【栗栖由喜、中村園子】
内密出産
慈恵病院が2019年12月に独自に始めた。望まない妊娠に悩む女性が、病院の新生児相談室長にのみ身元を明かすのを条件に事実上匿名で出産することを受け入れる。病院は母親の身元情報を保管し、子供が一定の年齢になれば閲覧できるようにするとしている。国内で内密出産は法制度化されておらず、国は生まれた子供の戸籍の取り扱いや、出自を知る権利を侵害しないかなどについて明確な見解を示していない。ドイツでは14年に法制度化されている。