「虹の松原」11歳死亡事故 遺族が県などに損賠提訴 佐賀地裁

佐賀県唐津市にある国の特別名勝「虹の松原」を通る県道で2019年、道路沿いの松の枝が折れて走行中の軽乗用車を突き破り、助手席の川崎辿皇(てんこう)さん(当時11歳)が亡くなった事故を巡り、母親の内山明日香さん(39)ら遺族が28日、「松の管理に瑕疵(かし)があった」として国と県、唐津市を相手取り、計約3160万円の損害賠償を求めて佐賀地裁に提訴した。
虹の松原は唐津湾沿いの長さ約4・5キロ、幅約500メートルにわたって約100万本のクロマツが群生し、日本三大松原の一つに数えられる景勝地。松原の中を県道虹の松原線が東西に貫いている。
訴状によると、事故は19年7月20日夜に発生。道路沿いの松の枝(幹は直径約1メートル)が折れて、明日香さんが運転していた車のフロントガラスと天井部分を突き破り、助手席に乗っていた当時小学5年の辿皇さんが死亡した。
遺族側の弁護士によると、県道では事故前の16年間に、倒木や折れた枝の落下などによる衝突事故などが少なくとも20件起きていた。12年12月には、道路を管理する県が、道路沿いの一部の松の木について「道路上空を横断するような形状で自重による倒木の恐れがあり、将来重大な事故が生じる場合がある」と指摘。26本の伐採許可を管轄の唐津市教委と国に求めたが、市教委は13年6月、「しばらくは松の生育を観察しながら対応したい」と許可しなかった。折れたのはこのうちの1本の枝だった。
遺族側は「危険性に真摯(しんし)に向き合っていれば防げた事故だった。長年の国、県、市の責任の押し付け合いや人命軽視の姿勢が事故につながった」と提訴理由を説明。28日、佐賀市で記者会見した明日香さんは「同じような事故を防ぐために今後、どのように管理すべきか裁判を通して考えてほしい。今の状況のままでは誰が被害に遭ってもおかしくない」と訴えた。
毎日新聞の取材に、林野庁佐賀森林管理署と唐津市教委は「訴状が届いていないのでコメントできない」、県道路課は「訴状が届き次第内容を精査して対応する」と回答した。【高橋広之、山口響】
「息子の死を無駄にしたくない」
助手席に乗せていた息子を突然失った悲惨な事故から約2年半。28日の記者会見で母親の内山明日香さんは「息子の死を無駄にしたくなかった」と提訴に踏み切った理由を涙ながらに語った。
2019年7月20日、息子の川崎辿皇さんがほしがっていたマンガを買うため、明日香さんは車を運転して当時住んでいた佐賀県唐津市内の書店に向かっていた。午後11時すぎ、現場の県道を走行中、突然ドーンという音がした。「てん君、てん君!」。助手席に向かって叫んだが、返事はなかった。車を突き破った道路脇の松の木の枝が辿皇さんの胸を貫いていた。
海岸線にクロマツが植林された虹の松原は景勝地として知られる一方で、道路側にはみ出した木の枝が落下するなどして、走行中の車が損傷する事故が相次いでいた。事故当日は台風の影響で強風が吹いており、そのため枝が折れた可能性もある。
事故後、辿皇さんの同級生や知人らも、虹の松原の安全対策の見直しを求める請願書の署名活動を支援してくれた。記者会見に同席した祖母の京子さん(67)も「二度と事故が起こらないよう裁判を頑張る」と亡き孫に誓った。【高橋広之】