SNS不適切投稿の判事 被害者に「深くおわび」 弾劾裁判初公判

SNS(ネット交流サービス)で殺人事件の被害者や遺族について不適切な投稿をしたなどとして、裁判官弾劾裁判所に訴追された仙台高裁の岡口基一判事(56)の弁護団は2日、弾劾裁判(裁判長・船田元衆院議員)の初公判で「裁判官の威信を失わせる非行には該当しない」と訴追内容を否認した。岡口判事は「表現行為の中には不適当なものがあり、深くおわび申し上げたい」と謝罪した。
弾劾裁判が開かれるのは9年ぶり。過去の裁判では訴追された8人のうち7人が罷免された。この7人はストーカーや児童買春で有罪になるなどした裁判官で、大半は最高裁が裁判官訴追委員会に罷免を求めた。岡口判事については、最高裁は分限裁判で戒告処分が相当と判断したものの、遺族らの請求により訴追された。SNSへの投稿を巡る訴追は初めてで、弾劾裁判所の判断が注目される。
濃紺のスーツ姿で入廷した岡口判事は、訴追内容の認否を「弁護人に委ねたい」と述べた。弁護団は投稿の事実は大筋で争わない姿勢を示したが、投稿内容は「侮辱に該当せず、社会的な評価をおとしめる意図もない」とした。一部の投稿は、裁判官弾劾法が訴追対象と定める「過去3年以内」を過ぎているとし、違法な訴追だと訴えた。今後の審理日程は後日決まる。
訴追状によると、岡口判事は東京高裁判事だった2017年12月、東京都江戸川区の女子高校生が殺害された事件について「無惨(むざん)にも殺されてしまった17歳の女性」などとツイッターに投稿。19年11月には、遺族について「俺を非難するよう東京高裁事務局に洗脳された」などと投稿するなど、計13件の表現行為で裁判官の威信を著しく失墜させたとされる。【近松仁太郎】
弾劾裁判
裁判官の身分は憲法で保障され、裁判官弾劾裁判所で罷免判決が出ない限り、辞めさせられない。最高裁や国民の請求を受けた国会の裁判官訴追委員会が、裁判官の威信を失墜させる非行などがあると認めた場合に、衆参両院議員7人ずつ計14人で構成する裁判官弾劾裁判所に訴追する。裁判は公開され、刑事裁判に準じた手続きで審理される。3分の2以上の賛成で罷免され、不服申し立てはできない。罷免されれば法曹資格を失い、退職金も支払われない。