若い頃は有能だった会社員が、50代に差しかかるとお荷物社員の仲間入り。なぜこうした現象が起きてしまうのか? そこで話題のビジネス書『1分で話せ』の著者で、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏と『天才を殺す凡人』の著者でワンキャリア執行役員の北野唯我氏による対談を実施。「使えない50代」を回避するための処方箋を聞いた。
◆「成功体験の応用」が使えないおじさんを生む
北野:僕は現在31歳ですが、「おっさんは使えない」という最近の風潮はあまり好きじゃないんです。自分より年上の人にはイキイキしていてほしいし、年配の人に対しても寛容な世の中じゃないと、いざ自分自身が年齢を重ねたときに同じことが起きるわけですから。
伊藤:やり方によっては、50代でも60代でも全然活躍できるし、変わることはできると思ってます。
北野:ちなみに、伊藤さんは現在おいくつですか?
伊藤:今、52歳ですね。
北野:えっ! 全然見えませんよね……。昔からそんなにアクティブだったんですか?
伊藤:いえいえ! 僕自身、44歳までは、会社の仕事を淡々とこなすことばかり考えるダメ社員でした。でも、東日本大震災の際、リーダー不在で混乱する現場を見て、「自分自身が動かなくちゃ」と痛感して。それをきっかけに、考え方が大きく変わりました。そこから、まさか本を書いたり、メディアに出たりするようになるとは、まったく思ってませんでしたが。
北野:44歳からでも人は変われる。これは、すごく希望があるお話ですね。そんな伊藤さんから見て、最近「50代が使えない」と言われる原因って何だと思われますか?
伊藤:ひとつには、既存の知識に頼りすぎることだと思います。年齢を重ねて経験値が上がると、あらゆる問題は既存の知識で対応できると思ってしまう。だから、新しい知識を取り入れないし、新しいことに取り組もうとする意欲もなくて、「使えない人材」になる。
北野:確かに。50代くらいになると、何でも知識や経験で応用できると思ってしまいがちですが、僕は応用しすぎることが必ずしも正しいとは思いません。以前、バングラデシュなどを中心に事業展開する起業家の山口絵理子さんと対談した際、面白い話を聞いたんです。
彼女は現在、多国籍に活動していますが、バングラデシュで成功した手法が必ずしもほかの国で成功するとは限らないと。国によって土着の文化が違うので、それを無視して既存の手法を応用しようとしても絶対うまくいかないそうです。
現状を把握してないのに、過去の自分の経験に安易に頼って、失敗する。50代の方は、まさにこの状況に陥っているんじゃないかなと思います。
伊藤:「何事にも応用しすぎる」ということこそ、まさにベテラン社員が失敗する構造です!
例えば、僕は何かを考えるときピラミッドストラクチャを作るのですが、その際、一番大切なのは「ファクト(事実)」をいかに丁寧に集め、それを抽象化して解決策を見つけることです。
しかし、50代くらいになると、すでに何度もこのピラミッドを作っているから、一番大切なファクト集めの作業を省略して、過去の事例を応用しようとする。だから、失敗する。
北野:20年前に成功した手法が、今も通用するとは限らない。それに気がついていないんですよね。
伊藤:そう。10年間勝ち続けた手法であっても、10年の間に環境は変わっている。そうした環境の変化を無視してしまうから、ダメなんですよ。
◆楽しみ続けることが活躍できる秘訣
北野:あと、常々思っているのですが、人生って、何かを面白がる力がめちゃくちゃ重要だと思います。以前、東京大学で物理学を研究されていた早野龍五先生も、「楽しそうにしている人には、人やチャンスが寄ってくる。それがすべてだ」とおっしゃっていました。
伊藤:誰に対してもフラットな気持ちで、全力で楽しめることは、50代にとっては重要ですよ。その上で必須なのは、「プライドを捨てる」ということ。例えば、若い人と話をして「この若造が何を言ってるんだ」と上から目線で対応するのか、「それ、本当ですか!」と前のめりで話を聞くのか。それが分かれ目です。
北野:人生100年時代と言われるなか、「聞く、話す、読む、書く」のなかで、明らかに聞く力が一番大切だと思います。それも、ただ聞くのではなく、楽しみながら能動的に聞く。変化が激しくて、明らかに自分より知見がある人がたくさんいる世の中で、他人の意見を前向きに吸収しないのは、非常にもったいないことですよね。
伊藤:そうそう。仮に本気で「すごい」と思っていなくても、意識的に「すごい!」「面白い!」と言うだけでも十分です。
自分が盛り上げることで、周りも楽しくなってくれるし、後から気持ちがついてきて、自分自身も楽しくなっていく。正直なところ、僕自身も「今、この瞬間を楽しんでいるように見えるように、こういうリアクションを取ろう」と、ひそかに練習しましたからね(笑)。
北野:お笑い芸人の方も、その傾向が顕著ですよね。
伊藤:『さんまのまんま』とか見ていると、明石家さんまさんがひたすら聞き手に回って、大笑いしていますから。
基本的に、他人の言うことを素直に聞けない50代って、年を重ねて好奇心が欠如しているのだと思います。僕も、昔は新しい情報に接するのが嫌で、初めての人が多い飲み会とかは行かないようにしていたんです。でも、次第に「あれ、俺、好奇心を持たないとヤバイな」と気がついて改善しました。
北野:好奇心って、自分で意識して持てるようなものなんですか?
伊藤:行動すれば持てるようになりますよ。何でもいいから行動すると、好奇心が刺激されて、次の興味の対象が見つかりますから。例えば、今年の12月にU2のライブがあるんです。僕の世代の人間にとっては青春のバンドですが、「まぁ、CDでも聴けるしな」とライブに行かずに終わっちゃうか、チケットを取って「絶対行くぞ!」とアクションを取れるかどうか。いざ行くと好奇心が刺激されて、「よし、じゃあ次はスティングのライブに行くか」って、次の行動にがるんです。
北野:なるほど、きっかけは何でもいいんですね(笑)。最近は「50代が危ない」という悲観的なニュースが多いですが、一方でポジティブなニュースも増えてます。例えば、老舗医薬品メーカーの森下仁丹では「第四新卒」として中高年の幹部候補を募集しているし、パソナでは60歳以上の「エルダーシャイン制度」を実施したり、シニア正社員の入社式もやっています。
その入社式に行った人に話を聞いたら、みんな「仕事があってうれしい!」と目をキラキラさせて喜んでいたとか。明確な役割と居場所があれば、人は何歳でも輝けるんだなと思いました。
伊藤:50代でも60代でも、プライドを捨てて、好奇心を持って行動すれば、いくらでも輝くことができるんですよ。思考停止状態が一番よくない。
北野:「この会社にいる限り、楽しめない」と思うような負の連鎖があるなら、それは一度断ち切ることが大切ですよね。たとえ、それで収入を犠牲にすることになっても。
伊藤:変わりたいなら、最初は収入を捨てて、モチベーションを取るべきだと僕は思います。子供の教育費や住宅ローンで目の前の収入を取ってしまう気持ちもわかりますが、それこそ棒立ちで殴られ続けるようなもの。一度かがんでモチベーションを上げれば、仕事のパフォーマンスが上がって収入はあとからついてくる。すると、さらにモチベーションがアップして収入が上がって……というプラスのスパイラルが生まれます。
北野:繰り返しになりますが、やりたいことをやってイキイキしている人に、仕事や人が集まりますからね。まずはそこから、始めてほしいです。
【伊藤羊一】
’67年生まれ。Yahoo!アカデミア学長、ウェイウェイ代表取締役、グロービス経営大学院教員。8月22日に新刊『0 秒で動け』(SBクリエイティブ)が発売
【北野唯我】
’87年生まれ。ワンキャリア執行役員、レントヘッド代表取締役。著書に『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞社出版)
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[逃げ切れない50代の末路]―