大阪市北区の雑居ビルに入る心療内科クリニックで2021年12月、男女26人が犠牲になった放火殺人事件で、大阪府警は16日、死亡した無職の谷本盛雄容疑者(当時61歳)を殺人や現住建造物等放火などの疑いで書類送検した。捜査関係者によると、谷本容疑者は事件の10カ月前に「心療内科」「ねだやし(根絶やし)」と記したメモを残していたことが判明。府警は谷本容疑者が孤立や困窮で自暴自棄になる中、この頃から自身も通っていたクリニックへの襲撃を決意したと推定した。
容疑者が死亡したことで刑事裁判を開けないため、大阪地検が近く不起訴処分にする。事件は17日で発生から3カ月を迎える中、府警は捜査結果を公表した。
送検容疑は21年12月17日午前10時20分ごろ、「西梅田こころとからだのクリニック」でガソリンを入れた紙袋にライターで火を付け、西沢弘太郎院長(当時49歳)や患者ら26人を殺害したなどとしている。全員が一酸化炭素中毒で、心肺停止で搬送された谷本容疑者も13日後に死亡した。
捜査関係者によると、谷本容疑者は事件直前、大阪市西淀川区の自宅を放火した疑いもある。焼け跡から押収された21年2月5日付の自筆メモには、「心療内科」「ねだやしの意味」と書かれていたことが判明。府警は10カ月前から大量殺人を計画したと判断した。
府警捜査1課によると、長男への殺人未遂事件で服役した谷本容疑者は出所した15年以降、定職に就かず周囲との交流もなかった。17年3月から不眠を訴えてクリニックに通院し、生活が改善しない状況が続いていたという。
一方、クリニックでは毎週金曜、休職中の人たちの職場復帰を支援する「リワークプログラム」が開かれ、多くの患者が前向きに治療に励んでいたとされる。谷本容疑者は事件の4カ月前から自身の診察日を金曜に変更。スマートフォンにはこの頃から下見やガソリンの調達を示す記録が残され、事件当日もリワークプログラムが開かれていた。
府警はこうした状況から動機を分析した結果、谷本容疑者は自身と対照的に社会復帰を目指す患者たちに一方的な嫌悪感や嫉妬を募らせて襲撃したと結論付けた。【安元久美子、郡悠介】