駅トイレ「SOS」作動せず男性死亡、東京メトロのバリアフリー不備相次ぎ発覚

東京メトロの駅で昨年6月、多機能トイレで50歳代の男性が倒れて死亡した。人が一定時間滞在すると感知して通報する装置があったが、点検が不十分で作動せず、男性が発見されたのは7時間後だった。昨年11月にはJR東日本で視覚障害者向け設備の不備も発覚しており、利用者の視点を欠いたバリアフリー対策の実情が浮かぶ。(山下智寛)
ケーブル未敷設

東京メトロによると、男性は昨年6月7日午後11時頃、日比谷線八丁堀駅の多機能トイレで倒れているところを発見された。30分以上使用中であることを示すランプが点滅していることに気づいた警備員が、駅員に連絡して鍵を開けて発見。病院に搬送されたが死亡が確認された。防犯カメラの映像によると、男性は7時間も中に入ったままだった。
トイレには、押すと駅事務室に異常を知らせる非常ボタンと、30分以上の在室を検知すると自動で駅事務室に通知する通報装置があった。しかし、非常ボタンはブレーカーが切れて電源が入っておらず、通報装置はトイレと事務室をつなぐケーブルがそもそも敷設されていなかった。
男性の死因は病死で、非常ボタンを押したのかや、発見の遅れと死亡との因果関係は不明だが、東京メトロは今月2日、事案を公表し、「亡くなられたお客様に、心よりお悔やみ申し上げる」と謝罪した。

9年間点検せず

機器の不具合だけでなく、ケーブルの未敷設という施工不良までが放置されていたのは、東京メトロが多機能トイレを2012年6月に設置して以降、一度も設備が実際に作動するかを点検していなかったからだ。
同社のマニュアルは、2か月に1回、設備が破損していないかなどを外観で確認するよう定めている。しかし作動状況を確認することまでは求めておらず、目視の点検にとどまっていた。
今回の事案を受け、同社が全180駅約220か所の多機能トイレを緊急点検したところ、12か所で相次いで不備が見つかった。
うち2か所が非常ボタンの電源の故障、1か所が通報装置と駅事務室を結ぶケーブルの接続不良だった。残る9か所は八丁堀駅と同様、装置と駅事務室をつなぐケーブルが敷設されていなかった。
何か所もの施工不良を放置していたことについて、東京メトロは「設置工事をした業者が当然、敷設したものと思っていた」と釈明している。

転落恐れ

この問題を受けて、国土交通省は2日、全国の鉄道事業者に改めて多機能トイレの設備の点検を求めた。
同省は鉄道各社にバリアフリー整備指針を示してきたが、どのような設備を設けるべきかを示した目安にすぎず、点検方法は各事業者任せだったのが実情だ。
東急電鉄は、トイレ完成時と、年1回の定期点検で非常ボタンなどの動作を確認している。一方、JR東日本は2年に1度の目視検査を行うが、動作確認についての規定はなく、一部は実施していなかったという。
バリアフリー設備を巡っては、JR東日本が昨年11月、全国637駅のホームにある視覚障害者のための音響案内装置のうち、59駅の装置に不備があったと発表している。音を発して階段などの位置を知らせる装置だが、スピーカーの方向が不適切で、誤って線路に転落する恐れがあり、改修を進めている。
障害者団体「NPO法人車椅子社会を考える会」(東京都)の篠原博美理事長は「鉄道事業者が、障害者が何に不安を抱えているのか十分理解できていないのが、要因ではないか。設備を整備するだけでなく、当事者の目線に立って考えてほしい」と話した。