―[言論ストロングスタイル]―
◆狂気と化しているプーチンの言動を、日本はどう捉えればよいのか
ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは「4日でキエフを落とす」と豪語していたようだが、その目論見は崩れた。ロシアのウクライナ侵攻は難航している。ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーが、ここまで奮闘すると、誰が予測できただろうか。まるで首都キエフで死のうとしているかの如く、亡命を拒否している。ウクライナ国民の士気は高く、軍は圧倒的な大軍を相手に何度も勝利している。
ウクライナは「NATOの盾」のような国だった。アメリカをはじめ西洋各国は、ウクライナに冷たい。だが、唇破れれば歯寒し。民間人への無差別攻撃、病院への攻撃、原発への砲撃、核兵器の先制使用による威嚇、そしてチェルノブイリ原発を停電させた。狂気と化しているプーチンの言動を、固唾を飲んで見守っている。
では、日本はどう捉えればよいのか。答えてくれる言論人は少ない。
◆プーチンが光の戦士? ウルトラマンに謝れ
「ウクライナはネオナチだ」「ウクライナはロシア人を大虐殺している」などのプーチンのプロパガンダを真に受ける連中は序の口。「プーチンは闇の政府・ディープステート(DS)と戦っている」「DSとは、ユダヤ人の国際金融資本だ」「ウクライナはDSの回し者」「DSと戦うプーチンは光の戦士、最後のヒーローだ」などなど、SFの如き異世界言論を繰返す輩が後を絶たない。「光の戦士」などウルトラマンのことかと思っていたが、現実の国際政治を語る際に、いやしくも評論家だの作家だのジャーナリストだのが口にしている。
連中は自分で決めた設定が崩壊し、「ゼレンスキーがユダヤ人だからカモフラージュになっているが、ウクライナはネオナチだ」「プーチンとゼレンスキーは裏で手を組んでいる」「真の黒幕はアメリカのバイデンだ」など、もはや取り繕えない。プーチンが光の戦士? ウルトラマンに謝れ! 妄想にも限度がある。ちなみに、「ウルトラマン」が何なのか知らない人は、『ウルトラマンの伝言』(PHP新書)を読めばよい。あれは名著だ。
◆「ロシアの言い分に耳を傾けよ」耳を疑うような言論たち
それにしても、「DS」だの「光の戦士」だの、ここまで“ラリっている”言論はネット特有だが、地上波のテレビでも耳を疑うような言論が、平気で飛び出す。その代表が、「ロシアの言い分に耳を傾けよ」「ゼレンスキーは抵抗をやめ、早く降伏せよ」だ。理由は、「一般市民に犠牲が出るから」だ。この手の言論が生存できる一事を以ってしても、日本でいじめが無くならないのが理解できよう。
誰の眼にも明らかに、一方が殴りかかった。殴られている側が必死に身を守っている時に、抵抗をやめたら一方的に殴られるだけではないか。それが国の場合、女は犯され男は良くて奴隷、そして悪ければ男女関係なく殺される。仮に殴っている側の言い分を聞くにしても、殴るのをやめさせてからだ。
そしてウクライナがプーチンに対して抵抗をやめたとしよう。もしかしたら、抵抗をやめた方が死ぬ数は多くなるかもしれない。だが、死人が多いか少ないかは問題ではない。敵の支配を認めれば、生きるも死ぬのもプーチン次第だ。
◆国際法に従えない国は文明国として扱われない
この程度の理屈もわからないのでは、国際標準の議論にはついていけまい。国際社会は、プーチンを「露骨に国際法を破った無法者」と非難する。その「国際法」が何なのか、日本人の何人が理解しているか。
国際法とは、法律のように誰かに強制される法ではない。国際社会の合意として成立している慣習だ。この慣習は掟でもあり、従えない国は文明国として扱われない。
国際法には、大きく二種類ある。一つがユスアドベルム、戦いの正当性に関する掟。もう一つがユスインベロ、戦い方の正当性に関する掟だ。
◆プーチンは開戦事由、戦い方、正当性双方に違反している
結論から言うとプーチンはユスアドベルムとユスインベロの双方に違反しているのだが、中身は違う。プーチンとその支持者は「NATOが東方拡大の約束を破ったから」とウクライナの領土を戦車で踏みにじった。この「他国の領土を許可なく戦車で通る」は、ユスインベロだ。ユスアドベルムにおける正当性が証明される限り、まったくの正当な戦い方だ。ただし、仮にユスアドベルムの正当性が証明されなかったとて、違法ではあるが犯罪ではない。ましてやプーチンの命令に従って戦ったロシアの軍人個人に責任はない。
またプーチンは、「ウクライナがロシア人を虐殺している」と自らを正当化しているが、開戦事由にはならない。それが一国の判断で許されるなら、侵略戦争はやりたい放題だ。仮にユスインベロに関してウクライナに非があったとて、ロシアをユスアドベルムで正当化できない。
◆ウクライナへの所業は違法ではなく、明確な犯罪だ
そもそも。人の世に殺し合いはなくならない。事実、現在のウクライナとロシアは敵だ。しかし、お互いが敵になったが、人間でなくなったわけではない。だから、戦いの正当性如何にかかわらず、戦い方には掟があると考えるのが国際法だ。
だからこそ許されない戦い方がある。民間人への無差別攻撃、病院への攻撃、原発への砲撃、核兵器の先制使用による威嚇、などなど。他にプーチンは、非武装地帯を設定して、そこを通る者を虐殺する常習犯だ。これは違法ではなく、明確な犯罪だ。違法と犯罪は違う。浮気と殺人の違いくらい。
ユスアドベルムにおいて、その戦いの正当性が証明されなかったら、単なる違法だ。負ければ、国が領土や賠償金を払って償わなければならない。逆にユスインベロを犯した者は、戦争犯罪人として牢屋行きだ。スロボダン・ミロシェビッチやサダム・フセインは容疑の証明が曖昧だったにもかかわらず、牢屋に送られて死んだ。
◆常軌を逸したプーチンに、どう立ち向かうのか
常軌を逸したプーチンに、どう立ち向かうのか。個人で何ができる?
私の知人である、ポーランドワルシャワ日本語学校教頭の坂本龍太朗さんを紹介しよう。普段の坂本さんは、ポーランド人の奥さんが校長を務める日本語学校で日本語や日本文化を教えているが、今次紛争が始まるや手弁当でウクライナからの難民を支援している。逃れてくるのは、すべて女子供。総動員令の中でも61歳以上の老人は国外に出てよいのだが、ウクライナのところは祖国に残って死ぬ覚悟らしい。坂本さんはわがことのように、支援している。
日本人はプーチンを甘やかしてきたが、味方でも何でもない。
プーチンは戦争犯罪人だ。
【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売
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