野生イノシシ、減少から回復か 豚熱根絶へ埼玉県が頭数管理強化

3年前に埼玉県内の5カ所の養豚農場で感染が確認された豚熱。野生のイノシシが媒介し、流行が拡大したと言われる。豚熱に加え、県が捕獲を強化したことでイノシシの生息数は減少した可能性がある。だが、養豚農場での流行を避けるため、引き続き対策が必要だ。【山越峰一郎】
2019年9~11月、秩父市や小鹿野町など5カ所の養豚農場で豚熱に感染した豚が相次いで確認された。このため、県はイノシシ捕獲数を増やしたり、ワクチン入りのえさをまいたりするなど感染防止対策を強化した。県みどり自然課によると、18年度に1908頭だったイノシシの捕獲頭数は19年度に2355頭へ増加し、20年度は前年度の3分の1以下の704頭へ大幅に減少した。同課の担当者は生息数について「19年度より大きく減少したと推測される」としている。
東秩父村の渡辺桂亮(けいすけ)・県猟友会小川支部副会長(74)は捕獲だけでなく、豚熱に感染し生息数が減った可能性があるとみる。「豚熱で死んだためかイノシシを見かけなくなり、捕獲しても病気のためか脂がなく痩せていた。人が通る登山道近くでイノシシの死骸が見つかることもあったが、それまでこんなことはなかった」と振り返る。渡辺さんは19年の豚熱発生前は月20~30頭を捕獲していたが、21年11、12月は月6~7頭と少ないままという。渡辺さんは「もう数は戻らないのではないか」と話す。
「狩りでの遭遇率、目撃情報や農業被害の声からするとイノシシが減っている感じがする」。こう話すのは狩猟ベンチャー企業「カリラボ」(横瀬町)の吉田隼介さん(43)だ。横瀬町内の捕獲数は18年度49頭、捕獲を強化した19年度に64頭だったが、20年度13頭、21年度は1月までに18頭と激減したままだという。
県畜産安全課によると、19年度の捕獲イノシシの豚熱の陽性率は10%だったが、21年度は0・6%と大幅に減少した。しかし、イノシシの頭数が減り、陽性率が下がったとしても、イノシシ間の豚熱流行を終息させなければ、養豚農場の豚が豚熱に感染するリスクは残る。21年には宮城県、栃木県と三重県、滋賀県で豚熱の感染が確認され、養豚場での豚の殺処分が行われた。全国では豚熱は根絶できていない。
イノシシ生息数への豚熱の影響を国内で初めて確認した池田敬・岐阜大特任准教授(野生動物管理学)は「19年度は捕獲強化に加え相当数が豚熱により山中で見つからず死んでいた可能性はある。ただ以前より少ないとしても、タヌキなどが防護柵のすき間から養豚農場に侵入していることを確認しており、中型動物や鳥に付着して持ち込まれて豚熱が発生し得る。加えて、(19年の豚熱)発生直後に比べるとイノシシは増えている実感もある」と指摘する。
イノシシは多産で、東秩父でも21年秋に40~50キロの小さな個体が何頭か捕獲されており、頭数回復を警戒する声も一部で出ている。国は23年度までにイノシシを11年度の半分に減らす方針で、県は豚熱による変動を踏まえつつ、頭数の管理強化を目指している。