「業者を待ってはいられない」 台風の爪痕残る千葉・八街、山武を歩く

関東地方を直撃した台風15号では、千葉県内の農家も大きな被害を受けた。都心から車で1時間ほどの八街市、山武市では、多くの農家が骨組みが大きく曲がったビニールハウスを片付けながら、なんとか次の農作物を育てようと作業に追われていた。電気は20日に復旧したばかり。台風の爪痕が残る24日、2市を歩き、農家を訪ねた。【中嶋真希】
千葉県北部の中央に位置する八街、山武両市は農業の盛んな地域。名産の落花生のほかに、トマトやネギなども栽培されている。都心から車を走らせて八街市内に入ると、見渡す限りの落花生の畑が広がる。
台風による強風で土の外に露出した落花生を片付けていた60代の農家の女性は、「実が土の外に出て、殻が緑色になってしまった。殻付きではもう売れない」と肩を落とした。「落花生は“照り豆”とも呼ばれ、太陽が照らないと育たない。梅雨が長引いた上に、台風が直撃するなんて。親の代から農業をやっていて、こんなことは初めて」とため息をついた。「これから機械にかけて選別するけど、殻付きで売れるのは例年の3分の1になるかもしれない。あとは加工品として売ってもらうしかない」と厳しい表情だ。
市内を歩くと、多くのビニールハウスが倒壊していた。立花悟さん(31)、遥さん(29)夫妻のイチゴ農園も、大切に育てていた苗床のビニールハウスの骨組みがひしゃげていた。立花さんは、「中は水浸しになり、苗床がだめになってしまった。片付けて、ハウスを解体しないといけないけれど、気が重くて。いくら補償されるかわからないので、どこまでお金をかけて直せばいいかわからない」と頭を抱える。

立花さんの農園では、例年はイチゴの苗を9月半ばに植えて、クリスマスに合わせて販売する。骨組みが少し曲がってしまったものの、無事だったハウス2棟に15日、浸水しなかったイチゴの苗を植えたが、「例年の5分の2程度。最も売れるクリスマスまでにちゃんと育つかどうか」と心配そうだ。20日まで停電が続いていたため、植えてから5日間は散水にも苦労した。
親の代から続く農家が多い中、「農業がやりたい」と県内の農家で4年間働き、やっとの思いで自分の畑を手に入れたのが2016年。イチゴの品種は「やよいひめ」だが、飼っているウサギ「マロン」のふんを肥料にしているため、「ラビットベリー」という愛称をつけた。甘いと評判で、近隣の人たちだけでなく、遠方から来たゴルフ帰りの人が「今年も楽しみにしていた」と買ってくれた。直売所では、イチゴのほかに、キャベツやネギなど野菜も売る。クリスマスツリーのように飾り付けしたイチゴの苗を販売すると、「孫へのプレゼントになる」と人気を集めた。開業して4年目に入り、やっと軌道に乗ってきたと思っていたさなかの台風被害だった。
「きっと、12月にはイチゴがとれるはず」と2人は希望を捨てない。「LINEの公式アカウント『立花苺園 ラビットベリー』で、今後の状況を発信していきたい。またお客さんに買いに来てほしい」と遥さんは期待を込めた。
「ひもを外すのは難しい選択だった」
八街市の東隣、山武市でも農業被害は大きい。有機農業でトマトや葉ものを育てている船木輝夫さん(51)は、28棟のビニールハウスのうち、15棟が骨組みが崩れたり、ビニールが破れる被害に遭った。業者が来てくれるのを待ってはいられないと、一部のハウスには自分でビニールを張った。「でも、骨組みがゆがんでいる。ハウスが曲がっているとトラクターがぶつかったりして、生産性が悪くなる。いずれ直さなくては」。これから葉ものを植える予定だったハウスは、天井の骨組みが地面につくほど曲がってしまった。「今、一番必要なのは、解体ができる職人だね」と切実だ。

船木さんは、台風が直撃するというニュースを見て、「これは大変なことになる」と感じたという。ビニールハウスは、ハウス全体を押さえつけるひもを外せば、強風が吹いてもビニールが外れるだけで、骨組みが壊れることは防げるという。「でも、それは中身の野菜が全部だめになることを意味する。ひもを外すかどうかは、難しい選択だった」と振り返った。「最も強い風が吹いたのは、早朝の4時半ごろ。その時間にひもを外そうとしても、暗くて作業できなかった」と悔しがる。
「収穫は、例年の半分以下。収入は3分の1になるだろう」と船木さん。落ち込むひまもなく、再び野菜を育てるために作業に戻った。
倒木被害で停電長引いた
山武市では、倒木の被害も大きく、停電長期化の要因ともなった。市内には特産のサンブスギの林が点在。多くが強風でなぎ倒され、電線が垂れ下がったままの場所もあった。
同市内には、サンブスギを育て、花粉の少ないスギや防災林の研究をする千葉県農林総合研究センター森林研究所がある。いたるところでスギが倒れた理由として、同研究所の岩沢勝巳所長は、「台風15号による経験したことがないほどの強風が大きな原因。加えて、幹が腐る『スギ非赤枯性溝腐病』でスギが倒れやすくなっていた」と話す。
林業の衰退で整備が進んでいなかったこともある。「山武市にあるスギ林は国や県の土地ではなく、民有林が多いことから、自治体が積極的に整備することも難しい」と課題を指摘。ある市内の農業関係者は、「スギの対策を進めなければ、また同じような台風が来れば被害が大きくなる」と危機感を示していた。