突破する日本 局面は変わった…核は「使用する兵器」に 日本の防衛政策は「非核三原則」で思考停止、求められるリアリズム対応

「力による現状変更」の意図を隠さないロシアや中国のような国には、一国では立ち向かえない。互いに守り合う集団安全保障が求められる。フィンランドとスウェーデンが非同盟の立場を転じてNATO(北大西洋条約機構)加盟を決断したのはそのためだ。
日本は米国と同盟関係にあるが、集団的自衛権は保持しているが憲法の制約で行使できないとの立場をとってきた。しかし、それでは米国との関係が片務的になり、日米の集団安全保障も心許ない。
そこで政府の憲法解釈を変更して、集団的自衛権を限定的に行使可能とし、平和安全法制(安保法制)を成立させた。これにより、日米同盟は緊密化し、抑止力は高まった。左翼陣営の「戦争法」との非難とは逆に、容易に手出しできない「戦争をしないで済む国」になったはずだ。
だが、当時とはさらに局面が変わった。
ロシアは核兵器使用をためらわないと発言している。ウクライナ東部での戦闘が激化するなか、地域限定型の戦術核兵器が使用される可能性がある。
従来、核兵器は保持するだけで抑止力になるとされた。核兵器保有国を攻撃すれば核兵器で反撃される。「相互確証破壊」のバランスが抑止力となった。核兵器は「使用しない兵器」と言われた。
しかし、実際に核兵器が使用される可能性が出てきた。核兵器は「持っているだけでなく、使用する兵器」となったのだ。核兵器攻撃を公言する相手には、少なくともこちらも核兵器使用を準備していることを示さなければ抑止力とならなくなった。防衛省防衛研究所の高橋杉雄氏は「『第3の核時代』と呼ぶべき時代」が始まったと指摘している(読売新聞3月24日付)。
局面は変わったが、日本の防衛政策は「非核三原則」で思考停止している。「核抑止の議論」について問題提起した際、NATO(北大西洋条約機構)が採用している「核シェアリング(核共有)」について説明した安倍晋三元首相の発言すら危険視されている。
だが、元国家安全保障局次長の高見沢将林氏は「(核共有の)本質的な目的は『核兵器の共有』ではなく、『同盟国の一体性を示し、政治的負担と運用、作戦上のリスクを共有』し、『危機のエスカレーションを管理』し、『平和を保ち、強制を防ぎ、侵略を阻止する』ことにある」という(読売新聞3月18日)。集団安全保障が強化され、「戦争をしないで済む国」になるのだ。
いまだに安保法制を批判している周回遅れの政党やメディアもある。「北海道有事」「台湾有事」の懸念を前にリアリズムの対応が求められている。(麗澤大学国際学部教授・八木秀次) =おわり