和歌山県立医大入試の「県民医療枠」に、県は17日、新たに産科医養成のための特別枠を設置すると発表した。卒業後に一定期間、県内公立病院で勤務することへの誓約を求める制度。産科医を確保できず、分娩(ぶんべん)を休止する病院が県内で相次いだことから、長期的な担い手の育成を目指す。
県民医療枠は、不足する地域で勤務する医師を養成しようと2008年度から始めた。全国から募集し、定員計20人。学校推薦型選抜と一般選抜がある。大学卒業までの最大8年間、自宅生は月10万円、自宅外生は月15万円の修学資金が借りられる。6年間借りた場合、卒業後9年間、県内公立病院で働くと返済が免除される。
新設の特別枠は、来年度入試からつくる。学校推薦型(8人程度)の中で3人程度とする。また、一般選抜(12人程度)では、初期臨床終了時に産科・小児科・精神科の3診療科から選択する条件で2人程度とする。貸与額は未定だが、県は「従来と同水準で検討している」という。募集要項は7月ごろに発表する。地域医療のために各県がつくった入試制度の中で、産科に特化した特別枠の設置は全国初という。
県によると、県内では13年の南和歌山医療センター(田辺市)をはじめ、15年に国保野上厚生総合病院(紀美野町)、20年に有田市立病院(22年2月に再開)と公立那賀病院(紀の川市)で分娩を休止した。新宮市立医療センターでも休止しているが、全国各地から常勤医らを確保して6月から予約を再開する。20年12月時点で県内の産婦人科医は99人。23年度目標の115人に不足している。
学生に敬遠されるのも産科医不足の一因という。今春、県立医大の初期臨床研修で産科学講座に進んだ学生はいなかった。県は敬遠される理由として、労働時間の長さや訴訟リスクが高いというイメージを挙げる。仁坂吉伸知事は17日の記者会見で、「時間はかかるが、不足している診療科で若い医師を組織的に養成する必要がある。志の高い人がたくさん集まれば」と語った。【山口智】