国会議員に支給されるJR無料パスを悪用し、新幹線のグリーン券などをだまし取ったとして、元議員の山下八洲夫容疑者(79)(岐阜県中津川市)が詐欺容疑などで愛知県警に逮捕された。現役時代に受け取ったパスを紛失したと偽って返却せず、実在する議員の名前をかたって「ただ乗り」を繰り返していたとみられる。無料パスは過去にも不正使用がたびたび問題となっており、国会でも改革に向けた議論が始まった。(上田惇史、山下真範)
「グリーン車、快適」
快適なグリーン車に乗りたくて、落選後に不正を10回以上繰り返した。昔の経験が忘れられなかった――。岐阜県を地盤に1983年から2010年まで衆院議員4期、参院議員を2期務めたベテランの山下容疑者。今月8日、名古屋駅から東海道新幹線のグリーン車に乗ろうとしたところで捜査員に任意同行を求められ、逮捕後にこうした趣旨の供述をしたという。
捜査関係者らによると、山下容疑者は4月末、地元の自民党参院議員を装い、東京駅の窓口で新幹線のグリーン券や特急券の発券を申請。当時、議員バッジと似ている元議員向けのバッジを付けていたという。応対した駅員が誤って異なる券を渡し、JR東海が自民議員側に連絡するという偶然によって不正が発覚した。
山下容疑者は立憲民主党を除籍(除名)され、同党岐阜県連代表の渡辺嘉山県議は「頼りになる先輩だったが、(これまでの実績)全てをゼロ以下にしてしまった。許せない」と憤る。
紛失おとがめなし
希望する国会議員には毎年度、有効期限1年のパスが支給される。新幹線に乗る際は窓口でパスを示し、専用の申込書を提出して券を受け取る仕組みだ。年間の予算は約5億円に上る。
衆参の両事務局では期限切れのパスは返還するよう求めているが、返さなくても議員側に不利益はなく、衆参両院は返還率さえ公表していない。山下容疑者は参院議員在職中、08年度分のパスを「列車内で紛失した」と参院事務局に届け出ていたが、実際には手元に残して悪用した疑いがある。ある衆院議員秘書は「紛失しても、おとがめがないことは周知の事実だった」と語り、不正の温床になったという見方を示す。
今回、駅員が窓口でパスの有効期限を確認するなどすれば不正を防げた可能性はある。ただ、名刺大のパスには氏名や年齢は書かれているが、顔写真はついていない。JRの関係者は「パスを疑ってじろじろと見れば失礼になりかねない。議員を名乗る人がパスを出したら信用するしかない」と語り、議員に配慮せざるを得ない実情を明かす。