北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、国が事業許可を取り消す方針を正式に決めた運航会社「知床遊覧船」(北海道斜里町)。経営者の桂田精一社長(58)は事故直後、乗客の家族らに対し謝罪の言葉を繰り返した。しかし、最近は家族への説明会に姿を見せることもなくなった。事故の関係者からは「社長の態度から伝わってくるものがない」という声も上がる。
事故から5日目の4月27日。桂田社長は記者会見の会場となった北海道斜里町のホテルに現れた。「普段、銀行などに行くときによく着ける」という赤のネクタイ。関係者から「落ち着いた色のネクタイの方がよい」と助言もされたが、変えなかった。献花台に赴いた際も花を持たずに土下座。関係者は「悪気はないかもしれないが、気が回らない」とため息をついた。
桂田社長は斜里町の出身で、東京都内で陶芸家として活動した時期もあった。周囲は「悪人ではない。明るくてハキハキとした朗らかな『田舎のおじさん』だ。地域の行事に積極的に参加もする。けれど、悪気なく人の心を逆なでしてしまうところもある」とする。桂田社長を知るある道議は「事故を起こしたことは反省すべきだが、知床の観光発展に尽力した」という一面も語る。
元斜里町議の父親から宿泊施設の経営を引き継ぐために帰郷した後、都内のコンサルタント会社の知人からのアドバイスを受けて、町内で新たな宿泊施設やレストランの経営を次々と始め、事業を拡大した。その一つが、知床遊覧船での観光船運航だった。10年以上前から桂田社長を知る関係者は「事業家という雰囲気ではなく、事業の急拡大に驚いた」と明かす。
人命を預かる観光船事業は安全第一の姿勢が求められるが、事故後に安全管理を巡るさまざまな問題が噴出した。元従業員は「同業他社は2021年のゴールデンウイークはコロナ禍で営業を自粛したが、練習を兼ねるという名目でうちだけが客を乗せた。『他社に許可を取っている』と社長は言っていたが、真相は分からない」と、利益を重視した経営姿勢だったのではないかと語る。
事故後、乗客の家族らの前で何度も土下座を繰り返したが、ある遺族は「土下座で伝わるものはなかった」と突き放す。ゴールデンウイークが明けたころ、桂田社長は「(最近は)家族説明会も静かになったね」と、周囲に語ったという。
毎日新聞は携帯電話や書面を通じ、桂田社長に取材を申し込んだが、24日夕までに回答はなかった。【山田豊、高橋由衣、金将来】