養蜂業に深刻な脅威、外来スズメバチを追え!

日本の生態系を脅かす外来昆虫。中でも、九州などで発見例が相次ぐツマアカスズメバチの脅威は深刻だという。国立環境研究所生物多様性領域生態リスク評価・対策研究室長の五箇公一さんが解説する。
好物はミツバチ
4月28日と今月6日、外来昆虫ツマアカスズメバチの女王が相次いで福岡県内で発見された。これはかなり深刻な事態と捉える必要がある。
ツマアカスズメバチは東南アジアから中国南部が原産地とされ、2000年代に入ってから、韓国や欧州に侵入して分布を広げている。いずれも何らかの物資に女王バチが潜んでいて、移送されたものと考えられている。
この外来スズメバチはとにかく繁殖力が強く、巨大な巣を作って大量の働きバチと女王バチを生産する。冬を越した女王が春に単独で木の根元など地面に巣を作り、巣が大きくなってきたら、樹木の高いところ(最も高い場合で30メートル程度)に巣を移動させる。その後、巣は最大で直径1メートル以上にまで成長する。韓国や欧州では市街地に定着し、電柱やマンションの壁面、ベランダといった人間の生活圏に近接する場所にまで巣が作られている。
また主に昆虫類を餌としており、侵入先の生態系に対する影響が懸念されると共に、特にミツバチを好物とするため、養蜂業にも深刻なダメージが及ぶ恐れがある。
日本では、12年に長崎県の離島・対馬に侵入していることが確認され、それ以降、急速に島内で分布を広げてきた。対馬はニホンミツバチの養蜂業が盛んな島であり、ツマアカスズメバチが増えたことで、ニホンミツバチの営巣率が悪くなっていることが地元の養蜂家からも訴えられている。
以前から対馬で増えたツマアカスズメバチが、いずれ島からの定期船に乗って本土に上陸するのではないかと心配されていた。これまでも15年に北九州市、18年に大分市、19年に山口県防府市でそれぞれ野生巣が見つかって駆除されており、着々と侵入リスクが高まっていることが示唆されていた。
今年、この季節に越冬女王が同じ福岡県内で発見されたということは、九州北部のどこかで営巣が成功し、次世代の女王の生産が行われていた可能性を示している。
いくら監視を強化したとしても、林内に作られた巣は容易に見つけることはできない。多くの外来種は、侵入初期にその姿を捉えることは難しく、発見された時点では既に定着が進行してしまっていることが多い。
このスズメバチを駆除するために、国立環境研究所では現在、「IGR(昆虫成長制御)剤」という、幼虫の脱皮を阻害して成虫になることを防ぐ薬剤を使った防除技術を開発中だ。この薬剤を誘引餌に混ぜて働きバチに巣内へ持ち帰らせ、巣内の幼虫に摂食させることで巣の生産を止めるという「蜂の巣コロリ」方式で、対馬島内での野外試験でも高い防除効果が確認されている。
スズメバチとしては攻撃性が弱く、刺された人が死亡する被害もほとんどないことから、過度に怖がる必要はないとされるが、それはあくまでも昆虫好きの専門家の意見。身近に巨大な巣が作られ、あの羽音が鳴り響くなんて事態は誰だって嫌に決まっている。国民の安心・安全のためにも、何としても定着は防がなくてはならない。