米国との「核共有(核シェアリング)」を本気で考えるのであれば、将来、米国が地上配備、海上配備の中距離核開発に乗り出したとき、日本がどうするかを考えることになる。
米国とロシアは、中曽根康弘首相の介入で、1987年に締結したINF全廃条約(中距離核戦力全廃条約)に長く縛られてきた。その間、中国は中距離ミサイルをどんどん開発した。今や中国は、日本に届く短距離ミサイルを1000発、中距離ミサイルを600発保有している。その一部は核搭載可能である。日米同盟側の中距離核ミサイルはゼロである。この非対称を克服する必要がある。
それでは、日本に地上発射型中距離核を配備することができるだろうか。
日本は敗戦国であり、米軍にナチス・ドイツから助けてもらったオランダ、ベルギーやフランスに比べて、米軍に対する感情が複雑である。広島や長崎、最近の福島原発事故の思い出もある。核に関する国民感情をなだめて、核兵器を常時、地上配備するのは容易ではないであろう。また、地上配備の核ミサイルは脆弱(ぜいじゃく)である。地下のサイロ深くに埋める必要がある。
日本への核配備を考えるとき、イスラエルの核が参考になる。
イスラエルは自ら公言することはないが、最初は空中落下型の核爆弾をつくった。ただ、イランのような遠距離の敵を爆撃するのは容易ではないため、次にジェリコミサイルに核爆弾を搭載した。地上配備の核ミサイルは脆弱なので、結局、ドイツ製のドルフィン型通常型潜水艦に核搭載しているといわれている。
潜水艦は、今日でも海の忍者のままであり、一度潜ると探知がとても難しい。残存性が高く、「核報復のための最後の一撃」を搭載するのにふさわしい。
日本が核保有を考えるのであれば、イスラエル型が望ましい。海上自衛隊に核戦略部隊をつくり、米軍の核兵器担当チームに同乗させる。その場合、原子力潜水艦の方が望ましい。
核シェアリングは、日本国論がまとまって、強力な首相のリーダーシップのもとで、「今のままでは、台湾有事において核の恫喝(どうかつ)に対応できない」と米国に強く迫らなければ、到底実現するものではない。日本が核の問題を自分自身の安全保障問題と考えて、米国にむしゃぶりつかない限り、米国は決して自分からは核シェアリングを言い出さない。
核問題は「民族、国家の存亡」を決める。もはや生殺与奪の権を米国に委ねて、国会の政局を優先し、核問題に被りすることは許されない時節になっているのである。
■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『戦略外交原論』(日本経済新聞出版)、『安全保障戦略』(同)、『歴史の教訓―「失敗の本質」と国家戦略』(新潮新書)、『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(同)など。