星を追い続けた70年 世界的「コメット・ハンター」関勉さん

5月、高知県の名誉県民に、アマチュア天文家、関勉さん(91)=高知市在住=が選ばれた。自作の望遠鏡で自宅の物干台から彗星(すいせい)の探索を始め、これまでに六つの彗星(すいせい)と223の小惑星を発見した世界的な「コメット・ハンター」だ。その関さんに、星を追い続けた70年あまりを振り返ってもらい、今思うことを聞いた。【聞き手・小林理】
――子どものころから星が好きだったのですか?
◆子どものころは戦争真っただ中でした。ある夜、防空壕(ごう)で米軍機の通過を待ち、爆音が消えてからそっと外に出ました。すると真っ暗な闇の中、ぴかりと光が差していたのです。星の光です。あの青い美しい光は今でも忘れられません。その時点ではまだ星の研究をするとは思っていませんでしたが、貴重な体験でした。
――彗星探索を始めたきっかけは?
◆岡山県倉敷市におられたアマチュア天文家の本田実さん(1913~90年)が戦後すぐの47年に本田彗星を見つけられました。終戦直後の暗い時代、「日本人が世界に先駆けて彗星を発見した」という素晴らしいニュースに感銘を受け、よし、自分も見つけてやろうと思いました。
――関さんは望遠鏡を持っていたのですか?
◆そのころは望遠鏡を買おうと思っても売っていません。なので、本で望遠鏡の構造を調べて、老眼鏡と虫眼鏡を使って工夫して自作しました。その望遠鏡で初めて見た星の美しさは素晴らしかった。その後本田さんに「指導してほしい」と手紙を書いたら、なんと返事が来たんです。偉い人からなかなか返事は来ないものです。「こんな望遠鏡で大丈夫でしょうか」と書いたら、本田さんは「あなたより小さな望遠鏡で彗星を発見した人もいます。要は努力です」と励ましてくれました。この返事がなかったら、探索は続いていなかったかもしれません。
――それからは探索一筋に。
◆50年から毎日探索を続けましたが成果は出ませんでした。気温が氷点下5度くらいの夜中から明け方に5時間も6時間も望遠鏡をのぞくわけです。戦争中のきつい動員仕事で鍛えられて体力はありましたが、それでも力尽きました。28歳のころから2年ほど、探索から離れました。
――そこでなぜあきらめなかったのでしょうか。
◆もうこれ以上の努力はできないと感じた時、「私は本当に彗星を発見したいのか」という問いに真剣に向き合いました。すると「発見できなくてもいい。この大宇宙を観測するだけでも素晴らしいじゃないか」という気持ちが沸き上がってきたのです。61年に関彗星を発見したのは再開直後でした。言うなれば捨て身の発見です。いったんギリギリまで自分を追い込む。そして「発見者になれなくてもいい。研究家として立派な仕事をしたい」とリラックスした時に発見が降りてきたのです。
――さぞうれしかったでしょうね。
◆それが「万歳、乾杯」といった気持ちはありませんでした。自分が人間としてできる最高の努力をしたことを顧みて、これから再び努力しようというゆうゆうたる気持ちでした。発見後、桂浜(高知市)に行って、太平洋を望んで自分の気持ちを確かめました。発見の感慨はこのように深いものです。
――その後もアマチュア天文家として彗星や小惑星を次々と発見する一方で、81年開館の高知県立芸西天文学習館(芸西村)で講師を務め、後進の育成にも尽力されています。
◆「私も彗星を見つけたい」などと書かれた多くの手紙が来ました。すべて返事を書きましたよ。彗星探索の道は険しくて、実際には返事を書いたうちの1人でも発見者が出れば大成功でしょう。しかし、例え発見できなくとも雄大な宇宙を見ていれば、精神的に成長します。素晴らしい人生の体験です。学習館で教えている子どもの中には宇宙飛行士、学者になりたいという子がいます。そういう人に一つのきっかけを作るのが私の仕事です。
――星の魅力とは何でしょうか。
◆彗星の中には、地球からかなり離れたところまで飛んで数百年後に戻ってくるものがあります。彗星も小惑星も、発見した天体が宇宙で“永遠に”輝くというのは大きな魅力です。自分の業績が星になって、地球が滅んだって残るわけですから。
――いまだに地球上では戦争や紛争が起き、その素晴らしい星を見る余裕のない人が多く生まれています。戦争を経験された関さんはどう感じられますか。
◆戦争を起こしている人には、宇宙を知れと言いたいね。国内でも海外でも、望遠鏡を持って星を見ていた先人たちは、大きな考えを持っていました。宇宙の広さを知れば、小さな地球で戦争なんか起こす気にならないはずです。狭い考えがあるから、戦争が起きるのです。
――これからやりたいことは。
◆この年齢で本格的に観測している人は他にいないでしょう。生涯現役という言葉が好きです。無理をせず、なるべく効率の良い観測をして長く続けたい。昔は平気で二晩でも三晩でも徹夜を続けましたが、今はもうしません。それでも一つでも多く星を見つけて、宇宙の謎の解明に近づきたいですね。