熱海土石流、崩落地目前に「盛り土さえなければ」「改めてぞっと」…被災者ら

斜面をのぞき込んだ先には、盛り土崩落場所の赤茶色の山肌がくっきりと浮かび上がっていた。3日、静岡県熱海市伊豆山(いずさん)地区の大規模土石流被災者らが目の当たりにした崩落起点。発生11カ月のこの日、応急排水設備の設置現場から一望できるようになった現場を間近に見た人々は、「ここに盛り土さえなければ」と無念の思いを吐露した。
「映像では何度も見ていたけれど、実際に来てみるとこの深さ、この高さ、この傾斜で土砂が落ちたら、ああいうことになるのかなとゾッとした」
被災者で構成する「警戒区域未来の会」代表の中島秀人さんはそう話した。視線の先に広がる谷のような斜面は、11カ月を経て大半が雑草の緑に覆われていたが、崩落場所だけは赤茶色。「ああ、土砂がここから流れてきたんだなと改めて感じた」と、当時を思い起こさざるを得なかった。
県の推計では、土石流起点となった逢初川(あいぞめがわ)源頭部には盛り土の土砂がまだ約2万立方メートル残る。公開された現場も、盛り土の一部だ。
県と市による応急の排水設備では、地表にT字型排水溝を通すことで雨水を流し、地中には排水管を埋めて地下水がたまらないようにした。盛り土造成時には、設置されなかったとみられている設備だ。
県砂防課はこの日の被災者らへの現地説明会で、「通常の雨なら崩れることはない」としつつも、「どのくらいの雨なら崩落するのか解析は出ていない。豪雨なら崩落する」と万全ではないことも認めた。
再崩落した場合の対策もあり、排水設備から約500メートル下った地点に土砂をせき止める堰堤(えんてい)があり、さらに下流に別の堰堤を国が建設中。両堰堤で約1万4千立方メートルをせき止められる。ただ、残存土がすべて崩れれば、約6千立方メートルは流れ落ちる計算となる。
被災者の太田かおりさん(56)は「通常の雨なら大丈夫と言われても、みんな不安に思う。県や市ははっきりいって、分かっていないのではないか」と漏らした。