「働いていないのに食べてはいけない」…1m55の女性、摂食障害で体重28キロに

食べることに関する問題が起こる精神疾患の摂食障害の患者が、新型コロナウイルス禍で増えた可能性が指摘されている。コロナ禍で、人との交流が減ったことなどが背景にあるとみられる。若い女性が多いが、男性や中高年層での発症も少なくない。石川、富山両県での支援の動きを取材した。(古渡彩乃)

「冷たい水出しコーヒーはいかがですか」。5月28日、金沢市で開かれたイベントの一角で、数人の女性がコーヒーやクッキーを売っていた。女性たちは、摂食障害など心の不調と闘いながら、自家

焙煎
(ばいせん)コーヒーを製造、販売する「からこ舎」のメンバーだ。体調に波があっても自分のペースで働ける女性限定の職場兼居場所として、昨年6月、石川県野々市市に拠点を構えた。現在、石川・富山在住の約20人が所属する。
運営する「あかりプロジェクト」は、摂食障害の経験者を中心に、当事者や家族を支援するNPO法人だ。自身も摂食障害に苦しんだ代表理事の山口いづみさん(45)らが2008年に活動を始めた。09年に当事者限定の会員制交流サイトを開設し、当事者の交流会「あかりトーク」を金沢で開催。以来、当事者や家族同士のコミュニティー作りや、支援者の育成、啓発活動に取り組んできた。
5月28日、富山県射水市ではあかりトークも開かれていた。同法人によると、富山や石川在住の4人が、それぞれ体形や体重に抱く思いを話したり、過食の衝動にどう対処するか知恵を出し合ったりしたという。
「回復には、自分の力を信じて引き出すことが大切。『医師と患者』だけではない対等な関係性はその土台になる」。山口さんは、当事者と同じ目線で回復を目指す意義をこう説明する。

厚生労働省などによると、17年6月時点で摂食障害で受診・入院している人は、全国に約22万人、石川県に約2400人、富山県に約1700人いると推計されている。
コロナ禍で若年層の患者の増加も指摘されている。昨年4~6月、国立成育医療研究センターなどが全国26医療機関を対象に20歳未満の患者について尋ねた調査では、摂食障害のうち、「神経性やせ症」の初診外来患者数がコロナ禍前の19年度の約1・6倍となった。感染拡大で、生活環境の変化によるストレスのほか、「コロナ太り」についての情報から過度な食事制限につながった可能性もあるという。

こうした中、石川県は今年度、新たに金沢大付属病院を「摂食障害支援拠点病院」に指定する準備を進めている。当事者と家族が早期に適切な治療や支援を受けられる体制作りに取り組む。国は14年度から自治体による「摂食障害治療支援センター」の設置を進めてきた。21年度からは設置要件が緩和され、名称も支援拠点病院に変更。現在は全国に4か所ある。
県は、同病院に心理士を配置し、これまで県こころの健康センターや保健所、医療機関に分散していた相談を同病院で集約していくほか、摂食障害の兆候がある人に接する機会が多い養護教諭らに対し、基本的な知識や対応を学ぶ研修も予定している。
富山県では、県心の健康センターや24時間対応の相談ダイヤル「こころの電話」などの相談を医療機関につなげる対応をとっている。
摂食障害の疑いがある人が病院を受診する際の参考にしてもらおうと、医療機関名のほか、入院・外来診療、専門治療の実施状況を一覧にし、「県医療計画別冊」として県ホームページに掲載している。
金沢大の内藤暢茂講師(41)(精神行動科学)は、「周囲との関わりが薄れると発症しやすい」とした上で、「即日入院が必要など重症化してからの受診が多い。偏食したり食事を残したりするようになったといった食べ方の変化を身近な人が見つけたら、できるだけ早く医療機関に相談してほしい」と話している。
空腹で胃が痛むのに食べられない

からこ舎のメンバーで金沢市の30歳代女性が経験を語った。

女性は、短大卒業後、アルバイトをしていたが、心身ともに疲弊して辞めた。「働いていない自分は食べてはいけない」と思いつめ、食べる量がどんどん減った。
身長約1メートル55に対し体重は28キロまで落ち、入退院を繰り返した。一日中空腹で胃が痛む。延々と「今食べていいもの」を考える一方、数口食べただけでも何グラム、何キロ・カロリーか気にせずにはいられなかった。体力が落ちる中でも、常に「何かしていなければ」と焦りに駆られていた。
苦しみは10年ほど続いたが、同じ病室の人が「自分の生きやすいように生きる方がいい」と伝えてくれたことで自責の念が和らいだ。少しずつ症状は改善し、2018年の退院後、体調は安定している。体重も約40キロまで戻った。
からこ舎には信頼し合えるメンバーがいる。「仕事ができ、少しでも周りの役に立てているのがうれしい。前は孤独を感じていたが、今は一人ではないと思えて幸せです」とほほ笑んだ。
◆摂食障害=食行動に問題が起こる精神疾患の総称。嘔吐や過剰な運動、または極端に食べないことでやせすぎる「神経性やせ症」と、過食を繰り返すが見た目の変化が少ない「神経性過食症」が代表例。深刻なやせ症状は命に関わり、入院し体重を増やすことが最優先される。治療は年単位に及ぶことが多い。