殺処分の直前に保護された犬がフライングディスクを空中でつかみ取る競技で活躍し、「保護犬の希望の星」と呼ばれている。佐賀県有田町のシェルターで生活するミックス犬「ハカセ」(雄、推定14歳)だ。かつての飼い主との生活で身に付けた能力か、持って生まれた才能か。ハカセは人懐っこくしっぽを振って円盤を追いかける。
動物の殺処分削減に取り組む有田町のNPO法人「アニマルライブ」。事務所横の広場で、代表の岩崎ひろみさん(63)がフライングディスクを投げ、「ゴー!」と声をかけた。ハカセはダッシュで円盤を追いかけ、地面に落下する前に見事に口でキャッチ。しっぽを振って、くわえた円盤を岩崎さんの元に返した。
ハカセがアニマルライブにやってきたのは2014年の初夏だ。飼い主のいない犬や猫が集められる動物管理施設に収容され、殺処分直前と知った岩崎さんが「命を救いたい」と保護を申し出た。茶と白の中型犬で、当時の年齢は推定6歳。「賢そうな顔」という理由で「ハカセ」と名前が付いた。
新たな飼い主を探そうと、アニマルライブでは何度もハカセを譲渡会に連れていった。しかし、人間であれば40歳ぐらいのハカセに引き取り手は見つからなかった。
途方に暮れていたある日、広場で遊んでいたハカセが木の棒をくわえて岩崎さんの元に来た。試しに棒を投げてみると、ハカセは棒の飛んだ方向に一目散に走り、落ちた棒をくわえて戻ってきた。「もう一度、投げて」と言わんばかりに鳴き声を上げ、何度投げても棒をすばやく拾ってくる。岩崎さんはその集中力に驚いた。「もしかして、すごい才能なのでは」
岩崎さんはフライングディスクをつかみ取る競技に挑戦させようと考え、訓練施設の力も借りて練習を始めた。競技では、人が投げた円盤をより遠くでキャッチするほど得点が高く、人間側の技量も重要になる。投てき役となったアニマルライブのメンバー、浦一智(かずとも)さん(57)は持病の腰痛に苦しみながら必死に技術を磨いた。
16年9月、ハカセは熊本県で開かれた大会に初出場し、最も易しいクラスながらいきなり優勝。その後も優勝や2位に輝き、一躍「保護犬の希望の星」として注目される存在になった。浦さんは「ハカセはすぐに競技をマスターしたが、私はハカセが取りやすいように投げるのが大変だった」と振り返る。
岩崎さんは円盤を追いかけるハカセの姿を見て、切ない思いになることもある。「きっと、以前の飼い主にもこんなふうに遊んでもらっていたのだろうな」と。ハカセがなぜ動物管理施設に収容されたのか、その経緯は分からないが、人懐っこくしっぽを振る姿にかつての飼い主との生活を想像する。
環境省によると、動物管理施設に収容され、引き取り手がなく殺処分された数は20年度、犬が4059匹、猫が1万9705匹。減少傾向にあるが、多くの命が人間の手で絶たれた。岩崎さんは「飼い主の意識を変えていかないと、殺処分はなくせない。人間の都合で動物を翻弄(ほんろう)しないでほしい」と訴える。
殺処分を免れ、現在もフライングディスク競技で活躍するハカセの半生は今年3月、「保護犬の星 フリスビー犬ハカセ」(ハート出版)として出版された。福岡市の児童書作家、西松宏さんが文と写真を担当し、ハカセと周囲の人々との触れ合いを描いた。岩崎さんは「ハカセの活躍が、動物管理施設にいる犬たちに目を向けるきっかけになってほしい」と願う。【中里顕】