1970年代後半からの自動車の排ガスによる大気汚染でぜんそくを発症したとして、全国の患者約150人が28日、国と自動車メーカー7社を相手取り、計約1億5000万円の損害賠償を求める「責任裁定」を公害等調整委員会(公調委)に申し立てる。同じ患者らが公調委に申請した「調停」は2021年12月に打ち切られていた。裁定は当事者間の合意を目指す調停と異なり、公調委が民事裁判の判決のような法的判断を下す公開の手続きになる。
同じ患者らは19年2月、全国一律に医療費の自己負担分全額を助成する制度の創設を国に要請し、その財源負担を自動車メーカー7社に求める調停を公調委に申請した。同年7月以降に非公開で11回の調停手続きが行われたが、国は「大気汚染と発症の因果関係は認められない」、自動車メーカー側は「立法作業である制度創設は調停では見込めないので打ち切るべきだ」などと主張。公調委は21年12月8日、「当事者の主張や考え方に隔たりが大きく、合意が成立する見込みがない」として手続きを打ち切った。
患者側は、国と自動車メーカーの責任をはっきりさせて制度創設の動きにつなげるため今回の申請を決めた。医療機関などを通じて新たな申請人を募ったところ約60人が集まったといい、首都圏のほか愛知県や大阪府などのぜんそく患者計147人(今月14日時点)が1人当たり100万円の賠償を求める。
調停に続いて申請人の団長を務める石川牧子さん(66)=東京都小平市在住=は「調停は非公開だったことも影響したのか、自動車メーカー側が途中から欠席するなど納得のいかない形で終わってしまった。裁定ではこちらの主張に対する見解を示してほしい」と話す。裁定をきっかけに制度創設を目指す考えで、「今も大気汚染が原因のぜんそくで苦しんでいる人は多い。新しい薬も出てきているが高額で、全国一律の助成制度がなければ安心して治療できない」と訴える。
患者側代理人の西村隆雄弁護士は「大気汚染とぜんそく発症の因果関係をきちんと主張、立証する。国や自動車メーカーの責任を認める裁定をしてもらえれば、制度創設についても改めて国と話し合う場を持てるのではないか」と期待する。
大気汚染公害に関する医療費助成制度を巡っては、石川さんら都内のぜんそく患者が国や都などに賠償を求め、07年に和解が成立した東京大気汚染訴訟の和解条項に制度創設が盛り込まれたことを受け、都が08年8月から患者の自己負担を全額助成する独自の制度を開始。だが、14年度末で対象となる患者の新規認定を打ち切り、認定を受けていた人についても18年度から月6000円までは自己負担とした。都や川崎市を除くほとんどの自治体に医療費の助成制度はなく、患者側は全国一律の制度をつくるよう国に求めてきたが、実現していない。【松本惇】
公害等調整委員会
公害紛争処理法に基づき、公害紛争を取り扱う総務省外局の行政委員会で、委員は元裁判官や医師ら非常勤も含めて7人で構成。あっせん、調停、仲裁、裁定の四つの手続きがある。あっせんは当事者間の自主的解決を委員が援助し、調停はさらに委員が積極的に介入して当事者間の合意を図る。仲裁は当事者双方が裁判を受ける権利を放棄し、委員による判断に従う。裁定は証拠調べなどをして法的判断を下すもので、公害との因果関係の有無を調べる「原因裁定」と、損害賠償責任の有無や賠償額を判断する「責任裁定」がある。