休暇先で仕事を行う「ワーケーション」。「仕事」と「休暇」をシームレスにし、より働き方を柔軟にする取り組みだ。日本航空や三菱UFJ銀行など一部の大手企業を中心に、導入が始まっている。また、さまざまな企業がワーケーション支援事業を開始。多くは国内観光地でのプログラムだが、中には海の向こう、ハワイで行うプログラムを提供する企業もある。
プログラム名は「CAMPING OFFICE HAWAII(キャンピングオフィスハワイ)」。JTB(東京都品川区)とアウトドアオフィス事業を展開するスノーピークビジネスソリューションズ(愛知県岡崎市)が、法人向けとして4月1日にサービスを開始した。主にアウトドアで実施し、テント設営などを通したチームビルディングや、企業トップ、来賓を集めて行うミーティングなど、自然を生かしたさまざまなプログラムを用意している。
なぜ、ワーケーション事業を始めようと思ったのか。そして、日本企業にワーケーションは普及していくのか。こういった疑問を、仕掛け人であるスノーピークビジネスソリューションズの取締役で、事業戦略本部長を務める藤本洋介氏に聞いてみた。
仕事にもっと野遊びを
スノーピークビジネスソリューションズは、2016年に設立。アウトドア用品などの販売を行うスノーピーク(新潟県三条市)の関連企業だ。「自然と、仕事が、うまくいく」をテーマに、「社員と社員の関係性の向上」を目的とした法人向けのコンサルティング業務などを提供している。
具体的には、野外で研修を行い企業のチームワークを向上させる事業や、オフィスにアウトドア用品を取り入れ、新しい職場環境を構築する事業などを手掛けてきた。かしこまった会議室ではなく、テントをオフィスの中に設置し、その中で会議を行うようになった企業もあるという。
同社の事業は旧来の「仕事は机でするもの、会議は会議室で行うもの」というような仕事観に風穴を開けるような斬新なものに思える。しかし、藤本氏によると、「スノーピークの社員は、アイデアが浮かばないようなときには自然に外へ出て考えている」というように、同社で「当たり前」のことを普及している認識だ。
こうした「当たり前」は、もともと人間社会にあったものである、と藤本氏は話す。「今、文明が発達していて生活のしやすさという点はかなり向上している。しかし、鉄の塊とコンクリートを行き来するだけで、生活と自然が離れすぎているのも事実。『もっと野遊びを』というのがわれわれのミッション」。同社では、毎年の総会もキャンプで行っており、働くことと自然とが密接に結びついている。
オファーはJTBから
キャンピングオフィスハワイについては、JTB側からオファーがあった。JTBは、1964年にハワイ事務所を設立。以来、50年以上にわたりハワイ事業に注力している。その一環として、ハワイでのキャンプ需要に注目。新規顧客の掘り起こしをどう行うか検討する中で、スノーピークのサービスに目を付けた。また、並行して
働き方改革の事業開発も行っていたこともあり、両社の取り組みが始まったという。JTBからのオファーに対して、スノーピークはまず新潟県の自然豊かな環境にある本社にJTBを招待。屋内と屋外での打ち合わせを行ったところ、JTBの担当者が屋外での会議を新鮮に感じただけでなく、意見も活発に出るようになった。こうした経緯から、野外でチームワークを高める現行のプログラムに落ち着いた。
本サービスでは、会場や利用人数などにも左右されるが、1人1万3000円程度のライトプランから用意した。よりラグジュアリーなプランでは、オアフ島の住宅地であるハワイカイにある邸宅を使用。経営層や来賓を招いたミーティングでの利用を想定し、1人当たり5万~10万円のプランもある。なお、料金には宿泊費や航空券の代金は含まれていない。
使用されるサテライトオフィスは、もともとJTBハワイが所有していた施設をワーケーション用に改造。同社の社員などが出張時に使っていたので通信環境等は整っていたが、インテリアを中心に内装をリニューアルした。
もともと、スノーピークはワーケーション事業を展開していた。神奈川県横須賀市にある観音崎京急ホテルと提携。共同で、17年2月にオフサイトミーティングもできるグランピング施設を開設した。藤本氏によると、土日には97%ほど、平日を含めても全体で70%ほどの稼働率だという。一方、なかなか法人の利用がなかった。そこで、キャンピングオフィスハワイを追う形で19年7月に「CAMPING OFFICE KANNONZAKI」を展開している。
野外で行う効果
スノーピークの手掛ける事業では、「座学」よりも「体験」を重視する。藤本氏によれば、野外のプログラムはチームワークの向上に良い効果をもたらすという。例えば、会議用にテントを設置する際にはメンバー同士で声を掛け合いながら作業を行うので、自然と「アイスブレイク」ができる。会話のウォーミングアップが済んでいるので、いざ会議が始まった際に、議論が弾みやすい傾向にあるという。また、場が温まっているが故に、普段の会議では遠慮して出ないような大胆な意見が出ることも多いのだとか。
キャンプにつきものの「焚き火」にも良い効果がある。以前にキャンプ研修を手掛けた企業では、普段はお互いに会話を交わさないような役職者たちが、焚き火の時間には自ら椅子を持って集まり仲良く話し込んでいることもあったという。
このように、野外のプログラムではお互いがプライベートな部分まで腹を割って話し合える。普段の肩書を外し、役職や立場を超えて、社員同士がフラットな立場で会社の今後や、現状の課題解決などについて議論を深めることができるのだ。
話を聞いていて気になったのが「天気」だ。雨が降ったり風が吹いたり、天気が荒れ模様になると、せっかくアウトドアで行う会議が台無しになってしまうのではないか。これに対しては「失敗経験も重要」という考えだ。藤本氏は、「成功したときというのは案外記憶に残らない。逆に、失敗したことは覚えているもの」と話す。例えば、何か忘れ物をした人がいれば、それが後々の思い出話にもなる。テントの設営や会議も、雨の中で力を合わせてやればこそ、チームの結束力を高めるきっかけになる。「ビジネスにイレギュラーはつきもの。そういった意味で、野外で行うことはかなり親和性がある」。
他社でのワーケーション支援事業
ちなみに、ワーケーションは「テレワーク」の1つだとされる。首都圏の混雑緩和や「働き方改革」の一環として国や政府が活用を推進しているテレワーク。在宅勤務と混同されがちだが、テレワーク=在宅勤務、ということではない。
日本テレワーク協会によると、テレワークとは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと」とされる。同協会は、このテレワークを3つに細分化している。自宅で働く「在宅勤務」、移動中にパソコンや携帯電話を使って働く「モバイルワーク」、そして勤務先のオフィス以外のスペースで働く「サテライトオフィス」だ。
このうち、ワーケーションはサテライトオフィスに属する。キャンピングオフィスハワイは、ワーケーションのハード面、ソフト面両方の提供だった。一方、ハード面であるサテライトオフィスを提供する企業も出始めている。
三菱地所は19年5月から、和歌山県にワーケーション用オフィスを展開。「WORK×ation Site(ワーケーションサイト)南紀白浜」と称し、グループ客向けに提供している。利用は1日1社に限定し、1日から最大1週間まで予約できる。利用人数は最大16人で、料金は1日につき10万円。主な仕事スぺースとなる60平方メートルの部屋に加え、7坪の共用会議室と30坪の共用スペースも利用可能だ。
同社の担当者によると、「丸の内でオフィス事業を展開しており、テナント企業がより良く働ける環境を作りたいと考え企画した」という。「そこまで需要が高くないかもしれないが、『とりあえずチャレンジしてみよう』と思って始めた」とのことだが、サービス開始以降、予想外の反響があった。「毎月コンスタントに予約が入っている。予約が入っていない月というのは今のところない。これだけのスピード感でこれほどの反響があるのはうれしい」。長期休暇に限らず、オールシーズンで予約が入っている。
中には既に複数回の予約をしている人もおり、「利用方法にかなりバリエーションがある」という。既に利用した人からは、「行ってみて良かった」という声が目立っているとのこと。また、和歌山県までの移動には飛行機が使われることが多く、「スイッチが切り替わり、リフレッシュして仕事できる」と非日常感を評価する声も上がっている。一方で、距離感や交通機関の料金など、遠方であることを懸念している人も多いという。担当者は「サービスもまだまだ不十分だと考えている。さまざまな点を改善しながら、北海道から沖縄まで、幅広いエリアでの展開を検討中」と話した。
近畿日本ツーリスト関東(東京都新宿区)では19年7月、長野県駒ケ根市へのワーケーションツアーパックを販売した。料金は、23,800円(2名1室利用で食事なし、大人と子ども1人ずつで利用の場合)。個人向けとして最大10組を応募したところ、5組が参加。参加者には駒ケ根市にあるテレワークオフィス「Koto」「ぱとな」を開放した。こちらでもリフレッシュして仕事ができる点が好評だったという。今後については「旅行会社ならではのノウハウを生かし、新しい提案をしていきたい。今後はオフィス風の部屋などを用意できると面白いかもしれない」(担当者)とした。
このように、徐々に広がりつつあるワーケーション。提供する側はプログラムを丸ごと提供したり、サテライトオフィスを提供したり、はたまた旅行パックとして販売したりと提供する企業側は手探り状態なのが現状だ。一方、利用する側としてはリゾート地でゆったりとした時間を過ごしながら、普段では出てこないようなアイデアが浮かんだり、チームの絆を深めたりできるチャンスがある。仕事とプライベートをきっちりと分けるのではなく、両方をシームレスにする新たな「ワークライフバランス」の形として、今後日本で定着するだろうか。