七輪の窯が崩壊、ツアーにも影響…観光業の回復の矢先 石川・珠洲

19日に震度6弱、20日にも震度5強の地震に見舞われた石川県珠洲市。けい藻土を切り出して作る同市の特産品「七輪」を焼く窯が崩壊するなど、被害の実態が次々と明らかになっている。一方、同市を訪れる観光客らが不安を募らせ、ツアー内容を変更する例も。旅行会社にはツアーの延期などに関する問い合わせが入り始めており、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた観光業関係者からは、影響の長期化を懸念する声が上がっている。【阿部弘賢】
多孔質なけい藻土を職人が一つ一つ切り出して作る七輪などを製造・販売する丸和工業の工場(同市正院町平床)。高品質で全国の料理店などでも使われる商品は、工場内にある4メートル四方ほどの窯で作られていたが、19日の地震で崩壊。中に入っていた七輪など数十個の商品も埋もれてしまった。
窯の修理には最低1カ月半以上かかる見込みで、その間は別の工場にある窯を代用する予定という。玉置仁一社長は「窯が壊れて残念だ。今後の出荷にも影響が出そうだが、何とか修理して再び全国に七輪を届けたい」と力を込める。
相次ぐ大きな揺れに、観光業への影響も出始めている。「軍艦島」とも呼ばれる、けい藻土でできた同市有数の観光名所「見附島」は、19、20日両日の地震で、海岸から見て正面に当たる北西側と裏側の南東側の先端の一部が崩れ落ちた。21日にツアーで訪れた名古屋市の60代の主婦は「出発が震度6弱の地震の直後だったので、出発の直前までキャンセルするか悩んだが、思い切って来た」と話す。前日は同市狼煙町の禄剛崎近くのランプを使った人気の旅館「ランプの宿」に宿泊したが、部屋のランプを取り外してもらい、枕元に荷物をまとめてすぐに避難できる状態で寝たという。
また21日に金沢市から訪れた社内ツアーの一行は、当初、禄剛崎を訪れる予定だったが、急きょ、市中心部にある「道の駅すずなり」での買い物に変更した。ツアーの担当者は「禄剛崎は震源に近いので、参加者の安全を考えて中止した」と説明する。道の駅内の観光案内所によると、ツアーを主催する旅行会社には延期や安全面などに関する問い合わせが寄せられているという。
この道の駅では、コロナ前は団体ツアーが月80件程度来ていたが、コロナ禍で半減。その後、海外旅行の代わりに能登半島を訪れる個人客や修学旅行生が増えたほか、奥能登国際芸術祭の人気も後押しとなり、月70件程度まで回復していた矢先だっただけにショックは大きい。観光案内所や道の駅を運営するNPO能登すずなりの篠川杏子課長は「いい感じに観光客が戻ってきていたのに、地震で水を差された。今後のツアーに影響が出ないかとても心配だ」と表情を曇らせた。