なぜ公費負担してまで 警察が「ストーカー加害者支援」する理由

ストーカーによる被害が高止まりする中、京都府警は「加害者」の支援に力を入れている。ストーカー行為をしてしまった人がカウンセリングを受ける費用を公費で負担するほか、加害者が電話で相談できる窓口も創設。当初は「なぜ加害者に税金を使うのか」という批判も受けた、全国的にも珍しい取り組みの現状を取材した。【千金良航太郎】
涙止まらず「つらい」
「京都府警です」。午後8時ごろ、仕事から帰ると、警察官が家の前で待っていた。身に覚えがあったので、驚きはしなかった。
府内に住む契約社員の男性(50代)は半年ほど前、元妻に対するストーカー行為で任意の捜査を受けた。以前にも警察から注意されていた。
男性は約20年前、同僚だった女性と交際を始めて結婚。しかしすぐに男女関係の問題を伝えられ、離婚することになった。男性は当時、重いうつ病だったこともあり、腹立たしさを抑えられなかった。インターネット掲示板に元妻の実名と中傷する内容を書き込んだ。
警察署で事情聴取を受けていると、これまでため込んできた思いがあふれ、涙が止まらなかった。「つらいです」。そう打ち明けると、紹介されたのが、府警のカウンセリング費用負担制度だった。
執着心を取り除くこと
2021年11月に府警から文書警告を受け、カウンセリングを受け始めた。これまでは人付き合いがあまりなく、他人に悩みを話す機会も少なかったが、「誰にも話せなかったことをカウンセリングでは話せる。気持ちが楽になったし、話せる場所があるのは違う」と徐々に立ち直りを実感している。カウンセリングを自費で受けるのは難しかったといい、「制度がなければ受けなかった」と語る。
男性のカウンセリングを担当するのは、有限会社「KIPP」(京都市)の代表を務める、川畑直人・京都文教大教授(臨床心理学)。少年鑑別所で非行少年の更生に携わった経験もある川畑教授は、ストーカー加害者の立ち直りで重要なのは「執着心を取り除くこと」だと話す。
川畑教授は「自己肯定感の低さがストーカー行為につながる」と指摘する。例えば、友人や趣味など恋愛以外の希望がある人は、相手に振られてもそれを受け入れやすい。しかし自己肯定感の低い人は、振られると相手に執着心を抱き、ストーカー行為に及んでしまうことがあるという。特に幼い頃、親に虐待された経験がある人は見捨てられることに敏感な傾向があり、加害してしまうことにも影響があるとみている。
重要なカウンセリング
川畑教授は、そうした執着心を取り除くためにカウンセリングが重要だと訴える。「加害者の多くは、自分の行為がストーカーに当たると思っていない。警察から注意を受けると驚いて一時的に納得するが、それでは執着心は残ったままで、根本の解決にならない」。警察や周囲の人が早期に気づき、重大な事態に陥る前にケアする必要があると話す。
警察庁によると、21年に寄せられたストーカー被害の相談は全国で約1万9700件。過去最多だった17年の約2万3000件からは減少しているが、悲惨な事件もなくならない。
府警人身安全対策課は、加害者に口頭注意などをした上で、ストーカーとしての傾向があると判断した人に受診を勧めている。
「加害者に金を使うのか」
保険適用外のカウンセリングは1回8000円ほど必要で、継続して受けると高額になる。加害者が自費で受けることは少なく、公費で5回まで費用負担する制度を17年に導入。これまでに約20人が利用した。
当初は「加害者に金を使うのか」「公金は被害者支援に当てるべきではないか」という批判が外部から寄せられた。しかし制度を主導した同課の西田勝志課長は「被害者支援と加害者支援は両輪。どちらも欠くことはできない」と強調する。2月に大阪府高槻市で、男子高校生が交際を断られた女性の母親を殺害したとされる事件を挙げ、加害者支援の重要性を訴える。「被害者を守るためには加害者の執着心を何とかしなければいけない」
府警は「京都ストーカー相談支援センター」(075・415・1124)で24時間、ストーカーをしてしまう悩みを持つ人の相談を無料で受け付けている。