コロナ給付金詐欺摘発7割は20代以下 目立つSNS拡散

国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金を巡る詐欺事件が相次いで摘発される中、これまで摘発された者のうち約7割が20代以下の若者だったことが警察庁のまとめでわかった。税金や制度に精通した国税局職員や弁護士などの「プロ」が指南役となり、交流サイト(SNS)を通じて言葉巧みに若者を勧誘し不正受給に巻き込んでいるケースが目立つ。(宮野佳幸、橘川玲奈、塔野岡剛)
警察庁によると、今年5月末時点で、持続化給付金詐欺の摘発件数は全国で3315件。摘発人数は約3800人に上る。うち約7割に当たる約2500人が10~20代の若者だった。30代が14%▽40代が8%▽50代が5%▽60代が3%▽70~80代が1%-と続く。
「誰でも金がもらえる」
警視庁に逮捕された東京国税局職員の塚本晃平容疑者(24)らの詐欺グループは、暗号資産への投資名目で若者を勧誘し、「違法ではない」「(投資に)失敗しても損はしない」などと給付金の名義人になるよう持ちかけていた。
「個人投資家」として、新型コロナで収入が減少したように見せかけて申請し、個人事業主が受け取れる上限額の100万円を受給。他者の勧誘に成功すればボーナスを与える手法も取り入れ、学校の先輩や後輩、友人などの交友関係などその輪を拡大。最終的には約200人が名義人となり、不正受給は約2億円にも上った。
過去最高規模の総額約10億円の持続化給付金の不正受給に関わったとされ、インドネシアに逃亡し警視庁に逮捕された谷口光弘容疑者(48)が主導した事件でも、セミナーやSNSで「誰でも金がもらえる」などとうたい、申請希望者を募集していた。
警察庁幹部は「若者がLINEなどのSNSを通じて気軽に犯罪に加担しているとみられる」と指摘。「コロナ対策でさまざまな給付金が大きな規模でできた。今後もターゲットになる可能性がある」と警戒を強めている。
制度の「穴」
持続化給付金詐欺を巡っては、税金や制度に精通した「プロ」が、支給を急いだ制度の「穴」を突いた狡猾(こうかつ)な手口が浮かんでいる。
「平成30年10月16日」開業、令和元年の年間事業収入「189万8108円」、平成31年4月の売上額「15万8175円」、2年4月の事業収入「0円」-。当時17歳だった男(19)が申請した書類に書き込まれた、でたらめの数字だ。
持続化給付金の申請には、前年の収入を証明する確定申告書を提出する必要がある。現役の国税局職員らが警視庁に摘発された詐欺グループは、税に詳しい東京国税局職員の塚本晃平容疑者や国税の元同期の中村上総被告(24)が確定申告書の偽造などの作業を担った。
持続化給付金の受給には新型コロナの影響で月の売り上げが前年同月比で50%以上減少していることが条件となるため、確定申告書には架空の金額を記入。申請月の収入は「ゼロ」とし、減少したようにみせかけていた。
捜査関係者は「名義人となった若者には容易ではないが、確定申告や税についての知識があれば簡単に思いつくだろう」と話す。
新型コロナによる休業などに苦しむ事業者を支援する持続化給付金は迅速な支給が求められていた。このためスピード重視となり、チェック態勢が手薄になることを犯行グループが突いたとみられる。
不正立件、約32億円
持続化給付金はこれまでに申請を受けたうち、約424万件の個人事業主や中小企業に約5・5兆円を支給したという。持続化給付金を所管する中小企業庁によると、6月30日時点で個人と法人からの申請計1297件で不正を認定。総額は13億円超に上る。
中小企業庁によると、令和2年夏ごろから不正が確認され始めたため、2年9月からは不正と類似した申請を発見した場合は追加の確認を求めるなど慎重な審査をする態勢を整えた。ただ申請と支給の約8割は2年8月までに済まされ、結果的に多くが厳しい審査を経ずに支払われた。
相次ぐ不正に警察当局も捜査のメスを入れた。受け付けを始めて間もない2年7月、山梨県警が全国で初めて詐欺容疑で男子大学生を逮捕。警察庁によると、それ以降も摘発は続き、立件総額は約32億8500万円に上る。