安倍晋三・元首相が銃撃され、殺害された事件で、逮捕された山上徹也容疑者は今年5月、勤務していた京都府内の工場を辞めていた。職場では孤立し、トラブルを起こすこともあったという。
工場の男性責任者によると、山上容疑者は2020年10月から派遣社員として勤務。奈良市内の自宅から車で出勤し、朝8時から夕方5時まで、フォークリフトで倉庫の荷物を運ぶ仕事をしていた。当初は仕事を的確にこなし、評価は高かったという。
しかし、21年春頃から、作業の手順を守らず、先輩に指導されると「そんなこと言うならお前がやれや」などと口答えをしたり、荷物の運び方を巡って社外のトラックドライバーと口論したりするように。同僚らと話すことは少なく、昼食は一人で車中で食べることが多かったという。
今年3月以降は休みがちで、無断欠勤も目立った。4月には「体調が悪い」との理由で退職を申し出て休み、5月15日付で退職した。「次の仕事は決まっていない」と話していたという。
男性責任者は「トラブルは確かにあったが、こんな事件を起こすとは想像もつかなかった」と語った。
山上容疑者は奈良県内有数の進学校である県立高校出身。卒業アルバムには、生まれた時の体重とともに、自分の将来について「わからん。」と素っ気なく書かれていたが、この頃に目立ったトラブルはなかった。同級生の男性は「話し方は穏やかで優しく、事件が現実と思えない」と絶句する。
1999年に高校を卒業した後、2002~05年、海上自衛隊に所属。この頃に銃に関する知識を得たとみられる。
十数年前には、奈良市内の借家で母親や兄、妹と一緒に暮らしていた。家主の女性によると、家賃の滞納が続くことがあり、女性は「お金に困っていたようだ」と証言する。この頃には父親は亡くなっていたという。
事件時は現場から約3キロ離れた奈良市内のマンションで一人暮らしをしていたが、近隣住民との交流はなかった。
複数の住民によると、山上容疑者の部屋では約1か月前から「ギコギコ」とのこぎりで何かを切るような音や「カチャカチャ」という金属音がよくしていた。山上容疑者の部屋かどうかはわからないが、昨年秋頃には「電気工具を使う音がうるさい」との苦情が住民から上がっていたという。
事件数日前にすれ違った住民女性は「思い詰めた様子で、周りが目に入っていないようだった。悩みがあるのかなと感じた」と話した。
山上容疑者は事件当日、自宅近くの近鉄新大宮駅から現場近くの大和西大寺駅まで電車で移動していた。手製の銃を持ったまま、電車に乗っていたとみられる。