政府は22日、参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬」(国葬儀)について、9月27日に東京・北の丸公園の日本武道館で実施すると閣議決定した。葬儀委員長を務める岸田文雄首相は、事件直後、「安倍元首相の遺志を継ぎ、日米同盟のさらなる強化に努めたい」と、アントニー・ブリンケン米国務長官に覚悟を伝えた。日本を取り巻く外交・安全保障環境が悪化するなか、岸田首相の手腕が注目されるが、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は「大いに危うい」と喝破した。 ◇ 安倍元首相の「国葬」には、世界各国の要人が来日し、G7(先進7カ国)首脳会議を上回る弔問外交が繰り広げられそうだ。 だが、岸田政権の下で、肝心の日本は大丈夫なのか。 結論を先に言えば、私は「大いに危うい」と懸念している。中国とロシアは、日本を「事実上の敵国」と見て、挑発行動を本気で軍事レベルに引き上げているにもかかわらず、岸田政権は従来通り、平時の「遺憾砲」を放つにとどまっているからだ。 双方が相手に対して感じている「脅威の認識」が、中露と日本の間でズレているのだ。これは非常に危ない。一歩間違えれば、重大事態に発展するリスクがある。少し、ていねいに説明しよう。 まず、中国は日本をどう見ているか。 それは、中国共産党系新聞「環球時報」の英語版「グローバルタイムズ」の一連の記事に示されている。 例えば、6月26日付の記事は「日本は、米国とNATO(北大西洋条約機構)をアジア太平洋地域に引き込むのに懸命だ。岸田首相は『拡大版NATOが不可欠』という立場を固めているように見える」と指摘した。 安倍元首相が亡くなった後の7月12日付社説でも、「日本の右翼勢力は平和憲法を時代遅れと主張し、NATOをインド太平洋に拡大しようとしている」と主張した。 要するに、「日本はアジア版NATOをつくろうとしている」と見ているのだ。中国にとって、これは日本が思う以上に大変な脅威である。 なぜなら、それは軍事的な「中国包囲網の完成」であり、日本を攻撃すれば、アジア太平洋の同盟国が一丸となって反撃する体制が出来上がることを意味するからだ。そうなったら、中国は結局、敗北するかもしれず、うかつに手を出せなくなる。 その証拠に、6月26日付の記事は「中国には、NATOのどんな挑発にも断固として対抗する十分な防衛能力がある」と記した。これは国内向けであると同時に、彼らの「恐怖心の裏返し」にほかならない。
政府は22日、参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬」(国葬儀)について、9月27日に東京・北の丸公園の日本武道館で実施すると閣議決定した。葬儀委員長を務める岸田文雄首相は、事件直後、「安倍元首相の遺志を継ぎ、日米同盟のさらなる強化に努めたい」と、アントニー・ブリンケン米国務長官に覚悟を伝えた。日本を取り巻く外交・安全保障環境が悪化するなか、岸田首相の手腕が注目されるが、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は「大いに危うい」と喝破した。
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安倍元首相の「国葬」には、世界各国の要人が来日し、G7(先進7カ国)首脳会議を上回る弔問外交が繰り広げられそうだ。
だが、岸田政権の下で、肝心の日本は大丈夫なのか。
結論を先に言えば、私は「大いに危うい」と懸念している。中国とロシアは、日本を「事実上の敵国」と見て、挑発行動を本気で軍事レベルに引き上げているにもかかわらず、岸田政権は従来通り、平時の「遺憾砲」を放つにとどまっているからだ。
双方が相手に対して感じている「脅威の認識」が、中露と日本の間でズレているのだ。これは非常に危ない。一歩間違えれば、重大事態に発展するリスクがある。少し、ていねいに説明しよう。
まず、中国は日本をどう見ているか。
それは、中国共産党系新聞「環球時報」の英語版「グローバルタイムズ」の一連の記事に示されている。
例えば、6月26日付の記事は「日本は、米国とNATO(北大西洋条約機構)をアジア太平洋地域に引き込むのに懸命だ。岸田首相は『拡大版NATOが不可欠』という立場を固めているように見える」と指摘した。
安倍元首相が亡くなった後の7月12日付社説でも、「日本の右翼勢力は平和憲法を時代遅れと主張し、NATOをインド太平洋に拡大しようとしている」と主張した。
要するに、「日本はアジア版NATOをつくろうとしている」と見ているのだ。中国にとって、これは日本が思う以上に大変な脅威である。
なぜなら、それは軍事的な「中国包囲網の完成」であり、日本を攻撃すれば、アジア太平洋の同盟国が一丸となって反撃する体制が出来上がることを意味するからだ。そうなったら、中国は結局、敗北するかもしれず、うかつに手を出せなくなる。
その証拠に、6月26日付の記事は「中国には、NATOのどんな挑発にも断固として対抗する十分な防衛能力がある」と記した。これは国内向けであると同時に、彼らの「恐怖心の裏返し」にほかならない。