日本海溝・千島海溝沿いで発生するとされる巨大地震について、北海道は28日、太平洋沿岸の38市町の被害想定を公表した。冬季の夕方に早期避難ができなかった場合の死者は釧路市で8万4000人、苫小牧市で4万人、函館市で2万9000人と試算。道の最大被害を積み上げると、全道で14万9000人が亡くなることになり、2021年12月に内閣府が公表した数値を上回る。【米山淳】
冬季夕方、早期避難しなかった場合
内閣府は21年、千葉県以北の被害を道、県単位で公表。道は地層のボーリング調査結果や実際の道路データ、時間帯別の人口動態などを活用して内閣府よりも細かく調べ、太平洋沿岸の38市町の被害を初めて想定した。
今回の道の試算は、内閣府の調査と同様に三陸・日高沖が震源の「日本海溝モデル」と十勝・根室沖で発生する「千島海溝モデル」に分類し、夏季の昼間、冬季の夕方、冬季の深夜の三つに分けて、死傷者数や全壊建物棟数などを算出。死者数は地域の住民同士で津波からの早期避難を呼びかけ合った場合と早期避難しなかった場合に分けた。
38市町の被害は「日本海溝」「千島海溝」のいずれかで最大となる数字を示した。早期避難しなかった場合の最大死者数は釧路市が冬季・夕方の8万4000人。苫小牧市の冬季・夕方が4万人、函館市の冬季・夕方が2万9000人。3市はいずれも冬季・夕方の条件下で最多となった。その他の自治体は冬季・深夜の被害が大きくなる傾向があった。
全道でみると、日本海溝モデルの冬季・夕方の死者数が14万9000人と最多だった。千島海溝モデルは冬季・夕方の10万6000人が最多。内閣府の試算によると、日本海溝モデルの冬季・深夜が13万7000人で最多だったが、想定を上回った。被害想定を策定したワーキンググループ座長の岡田成幸・北海道大名誉教授は分析の結果について「冬季の夕方はすでに暗くなっており、冬の深夜と同様に避難に時間がかかる。都市部は昼間人口が多いことも要因」と話した。
ただし、道は死者数について、津波避難ビルの活用や声かけによる早期避難を実施した場合、50~90%程度減らせるとも推計する。日本海溝モデルの夏季・昼間の場合、死者は12万1000人から9000人に減少するという。岡田座長は「ハード面の対策が欠かせないが、住民の心がけがなければハードの対策は意味をなさない。『我が家はこれで避難できるだろうか』と考えてほしい」と日ごろの備えの重要性を指摘した。
また、積雪寒冷地で対策が必要となる低体温症者数は、日本海溝モデルの冬季・深夜で6万6000人となり、内閣府が算出した1万9000人を大きく上回った。苫小牧市が最多の2万人を占め、函館市1万人、登別市7600人と続く。21年7月に道が公表した津波浸水域の想定は苫小牧市の1万224ヘクタールが道内で最も広く、実際の道路データを活用する道と内閣府の手法の違いも影響した。
鈴木直道知事は「ハードとソフトの両面の取り組みを推進することで被害の軽減が可能になる。『なんとしても命を守る』ために総合的な防災・減災対策に全力で取り組む」とのコメントを発表した。
釧路市、津波浸水3Dマップなど対策
道は冬の夕方に発生した場合、釧路市で最大で8万4000人の死者が出ると試算した。釧路市の佐々木和史防災危機管理監は「早期の避難率が低く、一次避難所がない設定。一つの指標として受け止めたい」という。
市は4月、ソフト面の対策として、グーグルアースの建物データに基準水位を重ね合わせて「津波浸水3Dマップ」を作成した。従来のハザードマップだと、ピンとこなかった市民も、どこに避難すれば津波被害に遭わないですむかが立体画像で分かる。
また、ハード面も強化した。一次避難所を113カ所に増設した結果、2008年の約3倍となり、さらに増やす方針。低体温症対策では避難所の備蓄の対応を検討する。
垂直移動、低体温症対策も 苫小牧市
一方、冬季・夕方で死者が4万人と想定された苫小牧市。市は、2021年7月の道の津波浸水想定を受け、津波ハザードマップの改訂を進めており、22年度内にまとめる予定だ。浸水域は道内で最も広いとされており、避難方針について、西部地区で水平移動だけでなく、垂直移動も加える方針という。
冬季・深夜に巨大地震が発生した場合、低体温症要対処者数が道内で最多の2万人となると算定されたことについて、前田正志危機管理室長は「各避難所に毛布や寝袋、ストーブなどを一定数、備えている。今回は一定の条件の中でのシミュレーション。道に詳細な情報をもらい、市の取り組みに足りないものがあるのか、方向転換が必要なのか考えていきたい」と話した。【本間浩昭、平山公崇】