「核廃絶へもっと強いメッセージを」 首相NPT演説に被爆地の声

1日に米ニューヨークの国連本部で開幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席した岸田文雄首相が演説したことについて、被爆地からは評価する声が上がった一方、核兵器禁止条約に触れなかったとして不満も広がった。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の派遣団の一員として過去3回、再検討会議に合わせてニューヨークを訪ねた広島県三原市の中村澄子さん(88)は「日本の首相として初めて会議に参加したことを大いに評価している。反対の声もあったと思うが参加は勇気ある行動。一つ前進した」と歓迎した。一方、「核兵器廃絶に向けたもっと強いメッセージがほしかった」と残念がった。
被爆市長として2005年の再検討会議で証言した元同県廿日市市長の山下三郎さん(92)は「会議に参加することは被爆国・日本の首相として当然のこと。核兵器をなくす運動の輪を世界中に広げてほしい」と求めた。
広島県原爆被害者団体協議会(広島県被団協)の箕牧(みまき)智之理事長(80)は「白黒はっきりしない演説だ」と不満をにじませた。「演説内で核兵器禁止条約に全く触れないのは異常。あえて避けたのかもしれないが、条約をばかにしている。今後、条約の署名、批准国から苦情がくるだろう」と批判した。
岸田首相は演説で折り鶴を手にし、広島平和記念公園「原爆の子の像」のモデルになった佐々木禎子さんにも触れた。佐々木さんは12歳で亡くなるまでの3カ月で1300羽以上の折り鶴を作ったエピソードで知られる。兄雅弘さん(81)=福岡県那珂川市=は「世界が核兵器廃絶へ向けて一つになるため、禎子の折り鶴を象徴にしようとされていると感じた。禎子の思いやりの心が世界に広がってほしい」と話した。
原水爆禁止日本国民会議共同議長で長崎県長与町の川野浩一さん(82)は冷ややかだ。「被爆国として『核兵器のない世界』を訴えたところで、核兵器禁止条約に背を向けているので説得力がない。多くの国は聞く耳を持たないだろう」と語った。「(6月にウィーンで開かれた)核兵器禁止条約の第1回締約国会議で各国の議論に耳を傾け、日本の立場をどう発信するか検討した上で、再検討会議で演説するべきだった。前提条件をすっ飛ばして演説したようなもので、中身も誠意も努力の形跡もない」と手厳しい。
被爆証言の活動を続ける長崎市の三瀬清一朗さん(87)は、岸田首相が核兵器のない世界に向けて五つの行動を基礎とする「ヒロシマ・アクション・プラン」を表明したことについて、「核なき世界に一歩前進したのは間違いない。首相は、ロシアと西側諸国の対話に向けた行動を示した」と述べた。日本政府が国連に資金を拠出して若いリーダーを日本に招く「ユース非核リーダー基金」の創設を表明したことも歓迎。「被爆者は間もなくいなくなる。その前に次世代に証言や体験を引き継ぎたい。世界の若者が被爆地を訪れるきっかけになってほしい」と語った。【岩本一希、中山敦貴、高橋広之】