永田町には、安倍晋三・元首相を失った喪失感がいまだ続いている。その大きな政治的役割を継ぐ後継者は現われるのか――安倍氏をよく知る識者たちが展望する。 “政界の最高実力者”の死は今なお自民党内を激しく動揺させている。最大派閥の安倍派では跡目争いが始まるどころか、当面、安倍氏が決めた執行部体制のまま運営していくことになった。 「『当面』というより『当分』集団指導制をとらざるを得ない。誰一人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」 最大派閥の迷走ぶりをそう看破した甘利明・前幹事長は同派から猛反発を浴び、8月3日召集の臨時国会で行なわれるはずだった甘利氏による安倍氏への追悼演説は“当分”延期となった。演説者選びに異論が出たから追悼演説そのものを延期するなど本末転倒も甚だしいが、岸田文雄・首相も麻生太郎・副総裁も事態を収拾することさえできない。 まさに誰も何も決めることができない、政治権力にぽっかり空白が生まれている。今の政界に安倍氏の代わりにその空白を埋めることができる人物はいるのだろうか。 なかなか見当たらない かつての「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人の1人で評論家の石平氏が語る。 「安倍さんの政治的実力を考えると、“安倍の前に安倍なし、安倍の後に安倍なし”で、後継たる人物はなかなか見当たりません」 一方、安倍政治に批判的な元毎日新聞論説委員・松田喬和氏の指摘は手厳しい。 「追悼演説をめぐってすったもんだしているのは亡くなった方に対して失礼なことです。従来の自民党には、相手を尊重する、お互いに学び合うという姿勢が強くあった。尊重のバランスをどうとるか、落とすところにどう落としていくか。そうしたことを大事にしていた。 ところが安倍氏の政治手法は野党などと折り合うことなく多数決で物事を決めていった。後継政治家の人材育成もしなかった。そうした度量のなさが、もともと自民党が持っていた幅の広さ、懐の深さをなくしてしまった。それが今回の追悼演説のゴタゴタにつながっている。安倍政治自体が、安倍後継を消してしまったのだと私には見えます」 衆目の一致する後継者候補はいない。 そこで本誌・週刊ポストは、「安倍氏の後継者にふさわしい人物は誰か」というテーマで評論家や政治ジャーナリスト、保守論壇の学者、官僚OB、エコノミストなど各分野の専門家26人に緊急アンケートを行なった。 【選者は有馬晴海氏、石橋文登氏、潮匡人氏、江上剛氏、大下英治氏、大原康男氏、木下厚氏、古賀茂明氏、古森義久氏、島田洋一氏、菅沼光弘氏、石平氏、田村重信氏、富田隆氏、野上忠興氏、長谷川幸洋氏、福田逸氏、藤井厳喜氏、藤本順一氏、真壁昭夫氏、松田喬和氏、三浦瑠麗氏、宮崎信行氏、百地章氏、山本学氏、屋山太郎氏の26人(五十音順)。複数回答あり(3人まで)。同率の政治家は五十音順で記載した。】
永田町には、安倍晋三・元首相を失った喪失感がいまだ続いている。その大きな政治的役割を継ぐ後継者は現われるのか――安倍氏をよく知る識者たちが展望する。
“政界の最高実力者”の死は今なお自民党内を激しく動揺させている。最大派閥の安倍派では跡目争いが始まるどころか、当面、安倍氏が決めた執行部体制のまま運営していくことになった。
「『当面』というより『当分』集団指導制をとらざるを得ない。誰一人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」
最大派閥の迷走ぶりをそう看破した甘利明・前幹事長は同派から猛反発を浴び、8月3日召集の臨時国会で行なわれるはずだった甘利氏による安倍氏への追悼演説は“当分”延期となった。演説者選びに異論が出たから追悼演説そのものを延期するなど本末転倒も甚だしいが、岸田文雄・首相も麻生太郎・副総裁も事態を収拾することさえできない。
まさに誰も何も決めることができない、政治権力にぽっかり空白が生まれている。今の政界に安倍氏の代わりにその空白を埋めることができる人物はいるのだろうか。
なかなか見当たらない
かつての「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人の1人で評論家の石平氏が語る。
「安倍さんの政治的実力を考えると、“安倍の前に安倍なし、安倍の後に安倍なし”で、後継たる人物はなかなか見当たりません」
一方、安倍政治に批判的な元毎日新聞論説委員・松田喬和氏の指摘は手厳しい。
「追悼演説をめぐってすったもんだしているのは亡くなった方に対して失礼なことです。従来の自民党には、相手を尊重する、お互いに学び合うという姿勢が強くあった。尊重のバランスをどうとるか、落とすところにどう落としていくか。そうしたことを大事にしていた。
ところが安倍氏の政治手法は野党などと折り合うことなく多数決で物事を決めていった。後継政治家の人材育成もしなかった。そうした度量のなさが、もともと自民党が持っていた幅の広さ、懐の深さをなくしてしまった。それが今回の追悼演説のゴタゴタにつながっている。安倍政治自体が、安倍後継を消してしまったのだと私には見えます」
衆目の一致する後継者候補はいない。
そこで本誌・週刊ポストは、「安倍氏の後継者にふさわしい人物は誰か」というテーマで評論家や政治ジャーナリスト、保守論壇の学者、官僚OB、エコノミストなど各分野の専門家26人に緊急アンケートを行なった。
【選者は有馬晴海氏、石橋文登氏、潮匡人氏、江上剛氏、大下英治氏、大原康男氏、木下厚氏、古賀茂明氏、古森義久氏、島田洋一氏、菅沼光弘氏、石平氏、田村重信氏、富田隆氏、野上忠興氏、長谷川幸洋氏、福田逸氏、藤井厳喜氏、藤本順一氏、真壁昭夫氏、松田喬和氏、三浦瑠麗氏、宮崎信行氏、百地章氏、山本学氏、屋山太郎氏の26人(五十音順)。複数回答あり(3人まで)。同率の政治家は五十音順で記載した。】