なぜ、安倍晋三元首相を護(まも)っていた警察の「警護員(けいごいん)」は、背後がガラ空きであることに気づかなかったのか?
どうして、犯人を射撃しなかったのか?
多くの専門家の方々がメディアでそうした疑念を口にしている。
しかし、そこには「警護」という世界の専門家の姿がほとんどない。
「警護」専門家たちの“秘められた声”に迫る
「警護」は、大きな枠組みで言えば警備警察のひとつの部門である。警備警察には機動隊を運用する「警備実施(けいびじっし)」、皇室関係者を護衛する「警衛(けいえい)」などがあり、それぞれで極めて独自性の強い技能と経験値が要求される。
「警護」もまさしくその一つで、その世界にいる者や経験者しか理解できない部分が多い。
今回、麻生幾氏は安倍元首相の警護の背景事情に迫ったレポートを「文藝春秋」に寄稿。
「現役の警護員」たちの“秘められた声”を伝えることで、語られていない事件の真相を浮き彫りにしている。
守られなかった「3つのマニュアル」
多くの「ベテラン警護員」が真っ先に口にしたのは次の言葉だった。
「日本警察の『警護』には3つの『マニュアル』がある。『警護要則』、『警護細則』、そして『警護措置マニュアル』(以下、総合して「マニュアル」と略)がそれらだ。
しかし、今回の奈良県警の警護員たちはこれら『マニュアル』の重要部分をいずれも守っていなかった」
「現役の警護員」たちが指摘したのは、「基本体形」という配置であり、「警護対象者」(安倍元首相)との「距離」である。
それらが「マニュアル」から逸脱していたと言及した。
警視庁での研修を受けていなかった
では、奈良県警の警護レベルにはどんな問題があったのか?
全国の道府県警察本部(以下、全国警察)の警護員たちを指揮する幹部は、1年間におよぶ警視庁警護課での研修を受けることを警察庁から強く促進されている。
しかし、今回の現場にいた警護員たちには“ある問題”があった。
警察庁は、全国警察に対し、その研修を受けるため警護担当の幹部こそ積極的に「入校」するよう強く奨励している。しかし、今回の現場では、ある重要な警護員が「入校」していなかったのである。
また、東京から安倍氏に同行してきた警視庁SPにも、警護員OBは疑問を投げかけている。奈良県警の警護員たちの力量を分かっていながら、経験を積んだSPはなぜ指導をできなかったのか──。
「マニュアル」では「選挙警護」という専門項目を作っている。そこでは、地元の選挙支援組織との対処について、事細かく「教養」(きょうよう)していた。だが、安倍氏の警護の現場では、それが遵守されなかった可能性が高い。
「LO」(ローン・オフェンダー)の極秘データベース
しかしその一方で、道府県警察の警護員たちには不幸な「ある事情」があったことも、「現役の警護員」たちは苦渋の表情を浮かべながら語ったという。
これらの事実により、警護員たちの教養に腐心してきた警察庁を大きな衝撃が襲った。
だがその一方で、犯人の人定ができた瞬間、警察庁のある部署で係官たちは、急いで立ち上げたコンピュータにかじりついた。係官が見つめたものは「LO」(ローン・オフェンダー)と密かに称された極秘のデータベースだった──。
そこでは、対象者を危険レベルが高い順に、A、B、Cとランク付けするだけでなく、それぞれに対する対処方法を詳細に指示しているのである──。
では、山上容疑者は「LO」データベースに登録されていたのか?
その詳細は「文藝春秋」9月号掲載の麻生幾氏のレポート「SPはなぜ山上を撃たなかったか」をご覧ください。
(麻生 幾/文藝春秋 2022年9月号)