保育所での「濃厚接触」特定中止が広がる…休園は第6波ピークの1割、重くなる現場の負担

新型コロナウイルスの第7波で、保育所での濃厚接触者の特定をとりやめる動きが各自治体で広がっている。保護者の就労への影響や特定作業を行う保育所や保健所の負担を小さくするのが狙いだ。感染者を見逃し、大規模なクラスター(感染集団)の発生で休園リスクが高まる面もあり、現場は難しい対応を迫られている。

「休む必要がある子供は確実に減った。保護者にとっては大きなことだと思う」。東京都江戸川区の認可保育所「かさい発みらい行きほいくえん」の馬場与志子園長(55)は4日、笑顔で遊ぶ子供たちの姿を眺めた。
東京都が7月22日から保育所で濃厚接触者の特定をやめる方針を打ち出したことを受け、同区内の保育所では、感染者が出ても、濃厚接触者を調べて自宅待機を求めるのをやめた。
同園では7月下旬に園児1人が感染したが、保護者に感染者が出たことを知らせるだけにとどめた。馬場園長は「今のところクラスターも出ていない。このまま第7波が収束に向かえば」と期待した。
都の方針は、濃厚接触で自宅待機となる子供の世話で、欠勤を強いられる保護者を減らすのが目的だ。特定作業や園の消毒のため、保育所が休園するのを避けることもできる。都によると8月2日までの1週間で全部または一部のクラスを休止した保育所は40施設で、前週(73施設)から半減したという。
千葉県や広島県、横浜、川崎、大阪、札幌市も同様の方針を示している。
千葉県の認可保育所「キートス」の運営企業は、これまで感染者が確認されると、保育士らが半日以上かけて室内の見守りカメラに保存された3日分の映像を確認してきた。担当者は「保育士の負担軽減になる」と新方針を歓迎する。

園児の感染で保育所の休園が相次ぐと、保護者を含めた社会活動に大きな影響を与える。そこで、厚生労働省は濃厚接触者を特定しないことを認めただけでなく、原則、感染者が出ても運営を続けることを自治体に求めている。

これを受け、休園の基準の見直しが進む。京都市は1人でも感染者が出ると休園する対応を段階的に変更。3月からはクラス単位で休ませるやり方に切り替え、7月からは、クラス単位の運営も2人以上感染者が出るまで続けることにした。
名古屋市、北九州市、和歌山市なども基準を緩和している。
厚労省によると、8月4日時点で全面休園したのは全国104施設。10歳未満の新規感染者数は過去最多だが、休園数は第6波のピークだった2月3日(777施設)の約1割だ。

とはいえ、クラスターの発生で一定数の感染者が発生したり、保育士の感染が相次いだりすれば、休園せざるを得ないケースも出てくる。
このため、さいたま市は濃厚接触者の特定をやめた後も、園内での感染拡大を防ぐため、独自に「マスク未着用」「給食の時間に15分以上一緒にいた」などを調べ、該当する園児を「濃厚接触者疑い」として、5日間の登園自粛を求めている。同市の担当者は「特定をやめたのは保健所の負担軽減が主な目的。保護者には心苦しいが、協力をお願いしたい」と話している。
千葉県市原市の「つぼみの森保育園」も、濃厚接触者の調査を続けている園の一つだ。ただ、保護者の仕事に影響が出ないよう、濃厚接触者だった場合も、自宅待機は求めず、各家庭で健康状態に留意するよう伝えているという。
こうしたやり方は、換気や玩具の消毒をこれまで以上に徹底するなどの手間が伴うといい、池永幸弘園長は「クラスターで休園すれば、保護者への影響は逆に大きくなると考えてのことだが、スタッフの負担や緊張感は増している。何が正解かはわからない」と話した。
小崎恭弘・大阪教育大教授(保育学)の話「社会活動との両立のため、緩和策は必要だが、保育所だけに重い負担を求め続けるのは厳しい状況だ。市区町村は、消毒作業の外部委託などの支援を積極的に行い、保育現場の負担軽減を進めるべきではないか」