厚生労働省は4日、新型コロナウイルスの第7波を受け、患者の発生届の入力項目を絞り込むことを容認した。入力作業を担う医療機関や保健所の負担を軽くし、重症化リスクの高い感染者の健康観察や入院調整といった業務により集中させる狙いだ。ただ、千葉県内の自治体には国の思惑とは裏腹に、従来通りの対応を続ける方針を決めたところもある。二の足を踏む背景にどんな事情があるのか。【柴田智弘、石川勝義】
二度手間を懸念、見直さず
「負担軽減に結びつかない」
千葉市の神谷俊一市長は10日の定例記者会見でこう語り、発生届の簡略化を否定した。
厚労省が4日に出した事務連絡では、65歳以上や複数の基礎疾患がある場合を除き、発生届の入力項目を減らすことを認めた。具体的には、陽性者の「振り仮名」「診断日」「検体の採取日」「ワクチンの接種回数」などは省略できることになった。だが、千葉市は従来通りの運用を続けるのだという。
千葉市の8月に入ってからの1日あたりの新規感染者数は、おおむね1000~2000人の水準で推移し、4日には過去最多の2251人を記録した。感染者の急増を受け、市は1日から、従来は午前9時~午後10時としていた入力作業を24時間対応に切り替えた。保健所が担う入力作業は5月から外部委託しているが、医療機関の業務を圧迫している実態は変わらない。また、外部委託先の作業が追い付かず、発生届の登録が遅れる事態も深刻化している。
それでも簡略化しないのはなぜなのか。
神谷市長が挙げたのは、二度手間になる恐れがあるという懸念だ。重症化リスクが低い患者であっても、後から入院することになった場合、ワクチンの接種回数などの情報が必要となる。また、国は振り仮名の入力を不要としているが、これを省くと、感染者のデータ検索が難しくなる。
最終的には、保健所や市医師会と協議した上で従来通りの入力の継続を決めた。神谷市長は国に対し、「全数管理などの枠組みそのものを見直してほしい」と注文をつけた。
柏市も従来通りの運用を続ける。保健所の担当者は「データを集めるのに、簡略化で情報が抜けてしまうのが心配だ」と話す。
「全数把握の見直し必要」は共通
一方、県は国の方針転換を受け、65歳未満で重症化リスクの低い患者の情報は削減することにし、10日付で保健所や医療関係者に通知した。ただ、振り仮名については、本人確認などを円滑にするために残す。
熊谷俊人知事は政府が発生届の簡略化を決めたことについて、「千葉県を始め、全国知事会で多くの知事から求められていた内容であり、歓迎します」とツイッターに投稿した。最終的には全数把握の見直しが必要としている点は、千葉市の神谷市長と同じ考えだ。
船橋市は一部の項目を削減する一方、国が不要としている診断日や振り仮名などは引き続き入力する。国の方針では、基礎疾患が複数ある場合は簡略化の対象外にしているが、慢性腎疾患の患者は他に基礎疾患がなくても簡略化の対象から外すなど独自の運用をするという。担当者は「試験的にやりながら、必要に応じて運用を変えていきたい」と話した。
新型コロナの発生届の簡略化を巡る千葉県内自治体の対応
千葉県 基本的に国の方針に沿って簡略化。振り仮名は残す
千葉市 簡略化はせず、従来通りの入力を続ける
船橋市 一部の項目を削減。振り仮名や診断日などは残す
柏市 簡略化はせず、従来通りの入力を続ける