海外での生体腎移植で臓器売買が行われた疑いがある問題で、NPO法人「難病患者支援の会」(東京)が今年に入りスリランカでの移植を計画し、海外のコーディネーターに「(患者を)2人ずつ合計10人ぐらい送ります」と伝えていたことが、読売新聞が入手した録音・録画記録でわかった。現地は政情が不安定で、手術は実現していない。
コーディネーターは、臓器売買に関与した疑いで2017年にウクライナ当局に逮捕されたトルコ人男性(58)。中央アジア・キルギスで昨年行われた日本人患者の生体腎移植で、ドナー(臓器提供者)1人あたり約1万5000ドル(約200万円)の「ドナー費用」をNPOから受け取ったことが判明している。
録音記録やNPO関係者の証言によると、NPOは以前、主に中国に患者を案内し、死体からの臓器移植を仲介していた。コロナ禍などで中国での移植が難しくなり、新たにトルコ人の男性に協力を依頼した。
昨年4月、トルコ人が手配した東欧・ブルガリアの病院で日本人2人の腎移植が行われた。手術は成功したが、その後、同国で19年から21年にかけて違法な生体移植が行われた疑いがあるとして当局の捜査が始まり、トルコ人は同国での移植を取りやめていた。
NPOは同6月、トルコ人が新たに手配した中央アジア・ウズベキスタンに関西在住の患者女性(58)らを案内。国立病院での移植を目指したが実現せず、11~12月に患者4人が隣国キルギスに入り、女性1人が腎移植を受けた。ドナーはウクライナ人だった。
だが、手術を受けた女性が一時重篤になったほか、別ルートで来院して移植手術を受けたイスラエル人が死亡。他の日本人への移植は行われなかった。
今年に入ると、トルコ人はスリランカでの移植を提案。5月にオンラインで行った打ち合わせで「いつでもスタートできます」と話し、NPO実質代表の男性(62)が「7月くらいから患者の案内を希望します」と応じた。
6月の打ち合わせでは、トルコ人が「まずは医療情報と出生証明書を送ってください」と要請。実質代表は「急いでやりましょう。1人成功したら、次に2人ずつ合計10人ぐらい送ります。2か月に1回ずつ」と話していた。
この頃、NPOからスリランカでの移植を勧められていたのは、腎疾患を持つ横浜市の男性患者(58)だった。いったん渡航日が7月上旬に決まったが、直前に延期された。
現地は今春から深刻な経済危機で、7月上旬には国家の破産が宣言されたり、デモ隊が大統領公邸を占拠したりしていた。その後も燃料が不足するなど混乱が続いているが、男性患者は今月に再び渡航を打診された。渡航日も13日に指定されたが、結局、NPOから取りやめを伝えられた。
「売買関与、一切ない」NPOがHPに文書公表
NPO法人「難病患者支援の会」は12日、「一連の報道について」などと題する複数の文書をホームページで公表した。「臓器売買に関与したことは一切ない」とする一方、キルギスで昨年行われた移植について「臓器売買の疑いがあるのも事実」とした。
文書では、NPOがこれまで17年余りで約170例の海外移植を案内し、ドナーは事故死、脳死、死刑囚(2015年まで)、生体(過去5例)のケースがあるとした。ドナーの選択・手配は現地の病院やコーディネーターなどが行っているとし、「NPOが関与することは絶対にございません」と説明した。
キルギスでの移植については、コーディネーターからの説明で手術前に生体移植と認識していたと記載。「私どもの知らない時に臓器売買が行われていたかもしれません」とした上で、今後は生体移植に関わらないと表明した。
臓器移植法が禁じる無許可の臓器あっせんは「一切行っていない」として、「これからも移植を必要とし、国内にて機会が得られない患者の方々の支援活動を続ける」とした。