旧統一教会被害「法令遵守宣言後も138億円」 全国弁連指摘

「霊感商法なるものを、過去も現在も行ったことはない」。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が10日の記者会見で説明した内容に、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)から疑問の声が上がっている。教団側は、教団関連の事件で信徒らが相次いで検挙された2009年に「コンプライアンス宣言」を出し、法令順守を徹底してきたとするが、宣言後も裁判所が教団の対応を違法と認めた例もある。全国弁連は「違法な献金強要や勧誘行為はなくなっていない」と指摘する。
「13年前が大きな分岐点だった」。10日の会見で田中会長が振り返ったのは、名称変更前の09年の「新世事件」だった。全国弁連によると、事件では「不安をあおって印鑑などを売りつけた」として、警視庁公安部が特定商取引法違反容疑で教団傘下の有限会社「新世」の事務所や教会などを家宅捜索。社長ら7人が逮捕され、有罪判決や略式命令を受けた。「先祖の因縁」などと不安に陥れ、高額のつぼなどを買わせる手法は1980年代から「霊感商法」と批判されてきたが、判決でも教団の「高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」と認定した。その後、13年の民事訴訟の札幌高裁判決(確定)では「宗教団体であることを秘して勧誘し、不安をあおり困惑させる」「財産に比して不当に高額を献金させる」ことなどを違法性の判断基準とした。
田中会長は会見で、当時の会長が道義的責任を取って辞任したことなどを挙げ、「物販活動への指導や、財産に対する高額な献金がなされないよう徹底してきた」と強調した。だが全国弁連代表世話人の山口広弁護士は「それ以降も被害は続いている」と指摘する。
今年1月には、20年まで数年にわたり献金を続けた山口県の70代女性から相談があった。教会の幹部信者から「先祖が霊界の地獄で苦しみ続け、あなたに救いを求めてさまざまな災いをもたらしている。あなたの子供が仕事や結婚に恵まれないのはそのせいだ」と説得されたことを理由に計1000万円以上を献金していた。「不安をあおり、献金を拒否できない状況に追い込まれた」と弁護士を通じて返金を求めた結果、女性が献金の内容を詳細にメモに残していたこともあり、900万円を受け取ることで示談が成立した。
全国弁連は、87~21年に全国の消費者センターへの相談と合わせて計3万4537件の被害相談があり、被害額は約1237億円に上るとしている。コンプライアンス宣言後の10年以降でも2875件の被害相談があり、被害額は約138億円に及ぶという。
教団は「相談をすべて『被害』と断定して発表しており、不正確で不公正」と反論する。係属中の民事裁判は98年の78件から22年には5件まで減ったとし、元信者らとのトラブルについても「適切に対応している」と説明した。実際に、全国弁連のまとめでも、コンプライアンス宣言を出した09年までの5年間は毎年1000件あまりだった相談件数が、近年は毎年100件前後と減っている。
ただ、全国弁連の渡辺博弁護士は「被害の実態はもっと大きいはず」と訴える。最近は、献金の返還を請求できないよう権利を放棄させる「合意書」の存在が明らかになった。全国弁連によると、元信者に署名押印させていた事例が複数確認されたという。
13年以降、少なくとも560万円を献金していた女性は、15年に約200万円の返金を受けた際に合意書を書かされた。夫と一人息子に先立たれた女性はその後、信者らに「2人が地獄で苦しんでいる」などと不安をあおられて多額の献金をさせられたとして、教団側を東京地裁に提訴。20年の判決では「社会的に相当な範囲を逸脱した行為として、違法と評価せざるを得ない」と教団などに損害賠償責任を認めた。
判決はさらに、合意書についても「何らの説明もなしに請求権を放棄させ、公序良俗に反し無効」と認定。21年に確定した。川井康雄弁護士は「脱会しても弁護士に相談することを諦めさせる目的で、組織的なのは明らか」と批判する。物品を売る形での「霊感商法」は減ったものの、「新たに広く信者を獲得するより、トラブルになりにくい今の信者から献金という形で深く吸い上げるというケースが増えているようだ」と手法の変化も指摘する。
全国弁連への電話やメールでの相談は、最近は月1件ほどだった。しかし安倍晋三元首相銃撃事件後の1カ月間では109件に上ったという。【堀智行、春増翔太】