五輪汚職、密室で何が…AOKI要望書が請託裏付けか 録音やメールを立証の柱に

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件では、紳士服大手「AOKIホールディングス」前会長、青木拡憲(ひろのり)容疑者(83)=贈賄容疑で逮捕=らが具体的に何を依頼し、大会組織委員会元理事、高橋治之(はるゆき)容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=が理事の権限をどう行使したかの立証が起訴に向けて必須となる。東京地検特捜部は録音やメールなどの複数の客観証拠を押収。「密室」で交わされたやりとりを解明するための柱に据えているもようだ。
契約結ばないか
受託収賄は、単純収賄とは異なり、贈賄側が収賄側に具体的な取り計らいを求める「請託」の立証が必要になる。やりとりは密室で行われ「水掛け論に陥りがち」(検察OB)だ。立証のハードルは高いが、特捜部は客観証拠を武器に捜査を進める。
特捜部が請託の「始まり」としたのは高橋容疑者が青木容疑者に「組織委とスポンサー契約を結ばないか」と持ち掛けた平成29年1月の面会。具体的なスポンサー料も示され、青木容疑者は「スポンサー料の安いカテゴリーであれば契約することができる」と返答したという。
スポンサー選定を主導したのは組織委のマーケティング専任代理店で高橋容疑者の古巣である大手広告会社「電通」(東京)。高橋容疑者はAOKI側の意向を組織委幹部だった電通出向社員に伝達したとされ、特捜部はAOKIを「高橋案件」とした電通社員間のメールも確認している。
ある組織委関係者は「スポンサー契約の発表日以前から契約締結を見込める企業を選別し、交渉を始める。そうでないと間に合わない」と打ち明ける。実際、AOKIは30年10月、正式に組織委と5億円のスポンサー料で契約を締結。AOKI側は高橋容疑者から契約を打診された際のやりとりの一部を録音するなどしており、特捜部は重要な証拠と位置付けている。
開幕の直前まで
スポンサー契約が結ばれる直前の30年9月にも、青木容疑者らは高橋容疑者と面会。この際に、五輪関連事業に絡む高橋容疑者に対する依頼を文書にした資料を持参していたという。文書は部下でAOKI専務執行役員の上田雄久容疑者(40)に作成させた。
青木容疑者は「東京五輪でスポンサーになる上で実現したいことを記しただけで、高橋容疑者への要望ではない」と供述しているとされるが、特捜部はこの資料も請託を裏付ける証拠の一つとみているもようだ。
ほかにもAOKI側は新型コロナウイルス禍で東京五輪が延期した際に追加で発生したスポンサー料を減免するよう、高橋容疑者に求めていた。特捜部は、こうした一連の依頼が五輪開幕直前の令和3年6月まで続いたと判断。AOKI創業家の資産管理会社から高橋容疑者の会社側へ渡ったコンサル料計5100万円を賄賂と認定している。
森元首相を紹介
一方、高橋容疑者はAOKI側の求めに応じ、組織委会長だった森喜朗元首相(85)を青木容疑者に紹介。特捜部はこれが便宜に当たるかどうかも慎重に捜査しているとみられる。森氏側は代理人を通じ面会については「捜査中なので回答を控える」とした。
今回の事件には「スポーツビジネスへの知見を期待され、高橋容疑者は理事に就任した。コンサルの本業がある中、支払いがすべて賄賂といえるのか」(ある検察OBの弁護士)と指摘する声もある。検察幹部は「請託と便宜は『裏と表』の関係。便宜に関する証拠もできるだけ収集する」として全容解明を進める。(吉原実、桑波田仰太、石原颯)