福岡県篠栗(ささぐり)町で2020年4月に碇翔士郎(いかり・しょうじろう)ちゃん(当時5歳)が十分な食事を与えられず餓死した事件を巡り、翔士郎ちゃんの母親の「ママ友」で保護責任者遺棄致死罪などに問われた赤堀恵美子被告(49)に対する裁判員裁判の公判が31日、福岡地裁(冨田敦史裁判長)で開かれた。同罪で有罪判決を受けた母親の碇利恵被告(40)=控訴中=が、検察側の証人として出廷。無罪を主張する赤堀被告は、碇被告の証言を全面的に否定した。
この日の法廷で両被告は、相手を見ることはほとんどなく「赤堀」「碇」と終始呼び捨てで通した。
公判で碇被告は、他のママ友や離婚を巡る訴訟で暴力団関係者の「ボス」が仲裁しているなどという、赤堀被告のうそを信じ込んで生活費全般を渡すようになり、子供たちへの食事も赤堀被告から制限を指示されたと主張。赤堀被告が翔士郎ちゃんに暴力を振るうこともあったが「怖くて何も言えなかった」と話した。碇被告は6月の自身の公判でも同様の説明をし、判決も赤堀被告による支配の影響を認定していた。
これに対し赤堀被告は、碇被告から現金は「受け取っていない」と否定。「ボス」についても、自分の知らない人で「碇(被告)が一緒になりたいと思っている男性と聞いた」などと反論した。この赤堀被告の「ボス」の説明について、碇被告は尋問で否定している。
また食事についての指示も、赤堀被告は「ありません」と否定。検察側は赤堀被告が指示をしたようなLINE(ライン)のメッセージを証拠として示しているが、赤堀被告は「碇(被告)にそう打ってくれと言われた。私のことを怖いと子供たちに植え付け、子供たちが言うことを聞かない時に見せるからと(碇被告は)言っていた」と反論した。翔士郎ちゃんへの暴力も自分ではなく、碇被告によるものだと主張した。
両被告は16年4月、お互いの子供が通う幼稚園の説明会で知り合った。碇被告は、赤堀被告の印象を「他のママ友と違っていた。話が合って、面白くて気が合うなというのはあった」と振り返った。尋問の最中、翔士郎ちゃんが赤堀被告に暴行を受けていたと話す碇被告が、ハンカチで何度も目元を拭う場面もあった。
両被告が「直接対決」する場面は碇被告の公判でもあったが、赤堀被告は証言をほぼ拒否していた。赤堀被告の公判では碇被告の証言の信用性が焦点となっていることも考慮し、碇被告への尋問は9月5日まで計4回予定されている。【平塚雄太】