Yahoo!知恵袋では“父親の余命”を質問…弟を実家で殺害した姉48歳の“ケータイ検索履歴”〈大阪・堺市練炭偽装殺人〉

2018年に大阪府堺市で、糖尿病の治療中だった父親に多量のインスリンを投与して殺害したほか、練炭自殺を装って弟を殺害したなどとして、殺人罪などに問われている姉の足立朱美被告(48)の初公判が、8月22日に大阪地裁で開かれた。足立被告は黙秘の意思表示をし、弁護側は「すべて争う」として無罪を主張。事件当時、水道工事会社の社長だった足立被告の現在の様子や、母親の沈痛な証言などについて、初公判から数日にわたって裁判を傍聴したフリーライターの高橋ユキさんが綴る。(全2回の1回目/ 後編 に続く)
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「特に申し上げることはございません」
大阪府堺市で4年前、父親と弟を殺害したなどとして逮捕・起訴された女の裁判員裁判が現在、大阪地裁で開かれている。
「特に申し上げることはございません」
8月22日の初公判、罪状認否でこう答えたのは、被告人の足立朱美(48)。「黙秘ですか?」と裁判長が尋ねると、再び言った。
「特に申し上げることはございません」
足立被告が問われているのは、2件の殺人と、名誉毀損、そして器物損壊。起訴状などによれば彼女は2018年1月、堺市の実家において、父親の富夫さん(67=当時)に、2度にわたってインスリンを注射し、低血糖脳症や誤嚥性肺炎を引き起こさせて同年6月に死亡させ、さらに富夫さんが亡くなる前の同年3月には、同じく実家で弟の聖光(まさみつ)さん(40=同)に睡眠薬を服用させて運び込んだトイレの中で練炭を燃やし、一酸化炭素中毒で死亡させたとされている。そして同年4月には、足立被告が義妹である聖光さんの妻らを中傷する文書を車のワイパーに挟み込んだほか、義妹所有の軽自動車や電動アシスト付き自転車などに塗料を吹きつけたともされる。
これらについて足立被告は黙秘の意思表示を行い、足立被告の弁護人も「すべて争います!」と述べた。
裁判員裁判対象事件では、起訴後に公判前整理手続という非公開の手続きを経て、争点が決められる。事件発生から公判開始まで4年もの歳月を要したのは、否認事件であることも無関係ではないだろう。逮捕当時は明るい茶髪で痩せ型だった足立被告だが、初公判に現れた姿は、白髪まじりの黒髪で、体型はややふっくらと変化していた。
知恵袋で「父親の余命」を質問
足立被告の父親・富夫さんがインスリンによって意識障害に陥る前の2017年、Yahoo!知恵袋に足立被告のものと思われるアカウントから、複数回にわたって富夫さんの余命についての質問が投稿されていたとの報道には衝撃を受けた(「週刊文春」2018年7月5日号)。〈人それぞれ個人差もあり、一概には言えないでしょうが、どれくらい生きれるのか、教えてください〉(2017年1月)、〈正直なところ、多少の覚悟はしてますが、余命は何年ぐらいでしょうか?〉(同年9月)。さらに弟の聖光さんの葬儀後には、同アカウントで〈何か告訴できるもの、損害賠償請求できる要素はありますか?〉と質問している(2018年5月)。足立被告のこの質問からは、聖光さんは自殺であるのに義妹に疑われている、という主張が読み取れる。
一連の事件が明るみに出たのは、足立被告の弟・聖光さんの死に不審な点が目立ったためだった。今一度、2018年当時の状況を振り返りたい。
“練炭自殺”にまつわる検索履歴
現場となったのは実家兼会社の建物で、1階に水道工事会社の事務所があり、2階が居住部分(実家)として使われていた。2018年3月の事件当日、2階の実家には足立被告と、聖光さん、母親の3人がいた。聖光さんの妻が足立被告から連絡を受けて駆けつけたところ、2階トイレの床に座り込んだ状態で意識を失っている聖光さんを発見した。足立被告の母親は2階リビングで横たわっており、呂律が回っていなかったという。母親はのちに大阪府警に対し「朱美が作った抹茶オレを飲んだ直後に意識がもうろうとなり、気付いたら聖光が死んでいた」と説明している。聖光さんは病院に搬送されたが、死亡が確認された。
聖光さんが発見された直後、おもむろに足立被告は聖光さんの妻に「父と姉のために金策に走り回ったが、お金を借りられなかった」「自分が(父親の富夫さんに)インスリンを打った」という内容が書かれた“遺書”を手渡している。後に府警が押収した足立被告のパソコンを解析した結果、同様の文言がワードで入力された形跡がみられ、実家のプリンターで印刷された可能性があることがわかった。さらに足立被告の携帯電話には“練炭自殺”にまつわる検索履歴が残っていたという。
現場となった2階のトイレには、一見、聖光さんが自殺を図ったかのような光景が広がっていた。だが、トイレは接着剤で目張りがされていたにもかかわらず、接着剤の容器は別の部屋から見つかった。本来であれば容器はトイレ内から見つかるはずだ。また、トイレタンクの上には練炭が鍋に入った状態で置かれていたが、火を付ける道具がトイレ内に見当たらなかった。これも接着剤と同じく、自殺であればトイレ内にあるはずのものだった。
生前、聖光さんが妻に「(朱美に)気をつけろ」
実際に当初、聖光さんの死因は自殺と考えられ、司法解剖が見送られていた。だが、聖光さんの妻からの度重なる要望を受けて、捜査一課が動いたところ、死亡の状況や遺書の不審点にようやく気づいたのだった。そして遺体からは、睡眠薬成分が検出された。
「夫はパソコンで手紙を書かない。文面や言い回しも違う」
聖光さんの妻がこのように府警に訴え続けなければ捜査は行われなかったはずだ。その強い訴えには理由があった。生前、夫が「(朱美に)気をつけろ」と話していたからだ。足立被告の父親である富夫さんが創業した水道工事会社の継承を巡っては姉弟間でトラブルになっていたともいわれる。本来の後継者と目されていた聖光さんは別の建築会社を設立し、足立被告が2015年頃に父親の会社を継いだというが、売上高は2年間で半減していた。
父親の緊急搬送に足立被告の関与を疑っていた
弟の聖光さんが死亡した時、娘に会社を託していた父親・富夫さんも、意識不明の状態にあった。2018年1月、低血糖状態で2度、緊急搬送されていたのだ。1度目は退院したが、その直後、再び低血糖状態に陥り、意識が戻っていなかった。2回とも、前日に足立被告が実家に泊まり、自作の甘酒を飲ませていたという。さらに、富夫さんのインスリンも実家から消えていた。父親の富夫さんが低血糖状態で緊急搬送されたことについても、聖光さんは足立被告の関与を疑っていたという。
2018年6月20日、足立被告は聖光さん殺害容疑で逮捕され、この8日後に父親の富夫さんは亡くなった。
初公判の冒頭陳述で検察側は、足立被告が「糖尿病治療をしていた父を事故に見せかけて殺すためにインスリンを打った」うえ「その犯行を疑った弟を自殺に見せかけて殺すため、遺書を作り、練炭を準備し、睡眠薬を飲ませた上に練炭を燃焼させ一酸化炭素中毒により殺害した」と主張。さらに、一連の犯行を疑った聖光さんの妻らについても足立被告が「中傷する文書を撒いたり、車などにスプレーを吹きかけ汚損した」とも主張している。
一方の弁護人は「2人が亡くなっている事件。検察は、被告人が殺害したと主張しており、2件の殺人が前提の求刑を行うことは間違いない。最も厳しい刑を求刑する可能性は十分にある」と、検察側が死刑を求刑する可能性に言及したうえで「間違いないと考えられる場合でなければ有罪とすることはできない。黒か白か判断する場ではなく、黒まではいかないというときは無罪とするべきだ」と訴えた。
( 後編 に続く)
「朱美が作った抹茶オレを飲んだ直後に意識が…」父弟を殺害した足立被告の母親が法廷で語ったこと〈練炭偽装殺人〉 へ続く
(高橋 ユキ)