視覚障害者が踏切を安全に横断できる環境づくりが喫緊の課題となっている。4月には全盲女性が踏切内で電車にはねられて死亡する事故が発生。国のガイドラインが改定され、踏切内外に誘導用の表示を設置することが推奨されるようになった。近年はホームドアの設置が進む一方、踏切内の対策は〝抜け穴〟となってきた。専門家は最先端技術を駆使しながら「個々の踏切の特性にあわせた対策を講じるべき」と訴える。
2日午後、堺市のJR百舌鳥(もず)駅近くの踏切に視覚障害者や歩行を指導する「歩行訓練士」ら約15人が集まり、横断する際の注意点を確認した。
この踏切の周辺に点字ブロックはない。歩行訓練士の原田敦史さんによると、こうした踏切はどこからが線路か分かりにくい上、歩行スペース外にそれてしまう危険性がある。
訓練を企画したNPO法人「堺市視覚障害者福祉協会」の土屋昭男会長は「行政や鉄道事業者には対策を講じてほしい」と訴える。
すでに悲痛な事故は起きている。奈良県大和郡山市の踏切で4月、全盲女性(50)が近鉄特急にはねられ死亡した。女性は踏切内にいると認識できずに逃げ遅れたとみられる。踏切手前に点字ブロックはあったが、経年劣化で一部がはがれるなど機能が落ちていた。
事故を受け同市は6月、突起の形状で踏切内にいることを足裏で認識できる「エスコートゾーン」と呼ばれる誘導用の点字ブロックを設置。国土交通省も同月、ガイドラインを改定。踏切の手前や内部に誘導用のブロックや表示を設けるよう求めた。
近畿地方整備局によると、同局が把握する管内のエスコートゾーンがある踏切はわずか6カ所。うち2カ所は事故後に設けられた。国交省や関東地方整備局は「設置件数を把握していない」とする。
なぜ踏切内の対策が遅れているのか。鉄道の安全対策に詳しい関西大の安部誠治教授(交通政策論)は、近年は駅ホームでの視覚障害者や酔客の転落事故防止が重視される半面、「踏切では高齢者が渡り切れなかったり、『開かずの踏切』で無理やり横断したりする事案への対策に力点が置かれてきた」と分析する。
こうした傾向は事故の発生状況に基づいている。約60年前に踏切事故は年間約5500件発生していたが、遮断機や警報機の拡充に伴って減少が続き、令和3年度は218件。うち約4割に高齢者が関係していた。
ガイドラインの改定で対策の推進が期待されるが、踏切には狭いスペースでバランスのとれた対策が求められるという難題が付きまとう。突起がある点字ブロックは視覚障害者の助けになる一方、車いすやベビーカーの利用者にとっては段差がないほうが移動しやすい。
誰かにとってのバリアフリーは別の誰かにとってバリアになる-。たびたび指摘されるジレンマで、駅や道路のバリアフリー推進を議論した国の有識者会議でも、車いす利用者が「視覚障害者だけを当事者としていただきたくない」と幅広い意見を取り入れるよう求める場面があった。
こうした状況を解決するために期待されるのが最先端技術の活用だ。山陽電鉄(神戸市)は昨年、踏切近くに設置されたカメラ映像を人工知能(AI)で解析し、取り残された人を検知する新システムを導入。点字ブロックについても、QRコードを埋め込むことで、スマートフォンをかざすと音声案内が流れる機能が開発されている。
安部教授は「踏切ごとに立地や利用者が異なるため、それぞれの特性がある。最先端技術の活用も視野に、特性に基づく最適な対策をリスクの高い踏切から優先的に導入していくべきだ」としている。(小川原咲、野々山暢)