老舗出版社も「五輪利権」で不正か 元理事の電通後輩、賄賂受け皿に

東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件は6日、出版大手「KADOKAWA」の顧問らが贈賄容疑で東京地検特捜部に逮捕され、紳士服大手「AOKIホールディングス(HD)」に続き、企業が“五輪利権”を求めて不正に及んだ疑いが浮かんだ。大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)は収賄罪の対象となる「みなし公務員」だが、民間人の後輩の会社を賄賂の「受け皿」としていた可能性がある。
6日午後1時前、特捜部の係官5人が東京都千代田区のKADOKAWA本社ビルに家宅捜索に入った。それから間もなく、新宿区にある角川歴彦(つぐひこ)会長の自宅や杉並区にある松原真樹前社長の自宅も捜索の対象となり、係官が次々と入っていった。
KADOKAWAは、戦後間もない1945年11月に国文学者だった角川源義(げんよし)氏が角川書店として創業した出版界の老舗。76年に映画分野に参入し、書籍と映画が連動する「メディアミックス」で成功。出版不況が叫ばれる中、近年はゲーム事業にも力を入れる。2019年4月に五輪のスポンサーに選ばれると「出版サービスで大会の物語を次世代に受け継ぐ」と表明し、21年に公式ガイドブックや公式記録集などを販売した。
関係者によると、同社は7月にAOKIHDの資金提供疑惑が発覚すると、元理事との関係について社内調査を実施。今回、元理事と共に受託収賄容疑で逮捕された深見和政容疑者(73)が社長を務めるコンサルティング会社「コモンズ2」に、スポーツ事業のコンサルタント料として多額の送金をしていたことを会社として把握した。
深見社長は電通の元雑誌局長で、以前からKADOKAWAとの付き合いが深かったとされる。同社は、コモンズ2とのコンサル契約に関わった担当者らにヒアリングしたが、疑惑を一様に否定したという。今回贈賄容疑で逮捕された顧問の芳原世幸(よしはらとしゆき)(64)、元五輪担当室長の馬庭(まにわ)教二(63)の2容疑者も対象だったとみられる。ある男性役員は取材に「本当のことを話したのか」と首をかしげた。
角川会長は5日に報道各社の代表取材に応じ「自分たちの精神を汚してまで仕事しろなんていわない。社員が不正をしていないということについて僕は信じたい」と主張した。しかし、6日に自身の自宅も捜索の対象となり、この男性役員は「スポンサーになるかどうかは社内でも一部のメンバーのみで検討されていた。上層部がどこまで知っていたのだろうか」と不安をのぞかせた。
収賄罪は公務員(みなし公務員含む)が対象で、民間人は本来対象外だが、公務員と共犯関係にある場合、「身分なき共犯」として罪の対象となり得る。特捜部は今回、民間人である深見社長を高橋元理事の「身分なき共犯」として逮捕した。元理事が代表のコンサル会社「コモンズ」は「コモンズ2」と取引関係があり、特捜部は元理事と深見社長が一体だったとみる。また、コモンズ2は、5日に贈賄容疑で特捜部の捜索を受けた広告会社「大広」(大阪市)からも約1400万円を受領した疑惑があり、特捜部は元理事と深見社長の密接な関係性の立証に力を入れるとみられる。
特捜部が立件した賄賂総額はAOKIHDルートとKADOKAWAルートを合わせ、1億円を超えた。近年、特捜部が手がけたカジノを含む統合型リゾート(IR)汚職事件(1審判決が賄賂額を758万円と認定)や鶏卵汚職事件(1審で同500万円が確定)と比べても規模が大きい。特捜部経験がある元検事は「裁判で有罪となれば実刑は免れないだろう」と指摘する。【最上和喜、柿崎誠、北村秀徳、遠藤龍、李英浩】