社説[岸田首相「国葬」説明]これでは懸念拭えない

従来の主張を繰り返すだけで、国民が納得できる説明とはとても言えない。
岸田文雄首相が衆参両議院運営委員会の閉会中審査で、安倍晋三元首相の国葬について初めて説明した。
国葬を巡っては、明確な定義や法的根拠がないままで、国民の反対論は根強い。共同通信の世論調査では「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%に上るなど世論は割れている。
閉会中審査で主要な論点となったのは、法的根拠と対象の選定基準である。
岸田首相は法的根拠について、行政権の範囲内で実施できると主張し、内閣府設置法を根拠とするこれまでの説明に終始した。
「暴力に屈せず民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」と述べ、実施に当たって個別の法律は不要と主張した。
国葬の対象となる基準については、安倍氏の在任期間が憲政史上最長だったことや外交などの功績、各国からの弔意に対して日本国として礼節を持って応える-などを理由に挙げた。
安倍氏の功績については、経済政策「アベノミクス」や外交政策などの評価は割れる。「権力の私物化」が指摘された森友・加計学園、「桜を見る会」などを巡る問題は、いまなお批判がある。
国葬を実施するだけの根拠はどれをとっても説得力に欠ける。
閣議決定だけで、国会で諮ることなく実施するのは、恣意(しい)的な運用につながりかねない。
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国葬批判の背景には、安倍氏が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から選挙支援を受けた問題もある。
岸田首相は安倍氏と教会側の関係調査の求めに対し、「本人が亡くなられた時点で、実態を十分に把握することには限界がある」と消極的な考えを示した。
自民党は、党所属国会議員379人中179人に、旧統一教会側と何らかの接点が確認されたとする調査結果を公表した。対象は現職の国会議員だけで、安倍氏との関わりには踏み込んでいない。
国民の関心には応えず、これで幕引きを図れば、政治不信に拍車がかかる。安倍氏の国葬を巡る議論と旧統一教会との関係は切り離すことはできない。
国葬の説明が不十分との指摘を謙虚に受け止めるというなら、実態を解明する責任がある。さらに国会で審議を尽くすべきだろう。
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国葬は、政府が国の儀式として国費で行う葬儀。戦前は勅令の「国葬令」が法的根拠だったが、戦後の新憲法制定に伴って失効した。
戦後、国葬が行われた首相経験者は1967年の吉田茂氏だけで、その後は行われていない。75年に佐藤栄作氏が死去した際にも検討されたが、野党の反対などもあり国葬は実施していない。
国葬を機に、国民の意見が二分されたままでは、政治への諦めや無関心がさらに広がる恐れがある。
説得力がない政治では民主主義は守れない。