北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、乗船者とみられる男女計3人の遺体を乗せた海上保安庁の巡視船「つがる」が10日、小樽港(北海道小樽市)に到着した。遺体はロシアの実効支配する北方領土・国後(くなしり)島やサハリン島南部で見つかり、9日にサハリン島・コルサコフでロシア側から引き渡された。日本側で改めてDNA型鑑定を実施し、身元が確認されれば遺族の元へ帰る。遺体の状態にもよるが、鑑定結果は早ければ数日中に出るという。
つがるは午前8時ごろ、小樽港に接岸した。船から三つのひつぎを運び出す際、周囲はブルーシートで囲まれていたが、近くで静かに見守る事故関係者とみられる人たちの姿もあった。ひつぎは車に乗せられ、海保職員が敬礼で見送る中、鑑定のために関係先へ移送された。
事故発生から140日後の「帰還」を見届けた第1管区海上保安本部の川越功一次長は「お帰りになられ、安堵(あんど)した。身元確認をし、できるだけ早くご家族の元へお帰りいただけるように全力を尽くしたい」と述べた。
3人はロシア側の鑑定によると、いずれも北海道在住で乗客の20代女性と50代男性、カズワン甲板員の曽山聖(そやま・あきら)さん(行方不明時27歳)とみられる。
20代女性や曽山さんとみられる遺体は事故現場から直線距離で少なくとも40キロは離れた国後島、50代男性とされる遺体は北へ200キロ以上離れたサハリン島で見つかった。5~6月にロシア側から発見の連絡を受けた日本側は、鑑定のために乗客らの家族から提供された試料をロシア当局に送付。6~7月にロシア側から外交ルートを通じて「カズワン乗船者のDNA型と一致した」との連絡があった。
海保は早期の遺体引き渡しに向け、発見の連絡があった直後から外交ルートを通じて日程や方法についてロシア側と交渉してきた。日露中間ラインの洋上でロシア国境警備局の船から海保の巡視船に引き渡す方法などをロシア側に提案したものの、交渉は難航した。海保関係者は「過去にもロシア側に拿捕(だほ)された日本漁船の乗組員の帰国に時間がかかったケースがある。以前から交渉は一筋縄ではいかない印象がある」と説明する。
今回の引き渡し方法について、ロシア外務省から日本の外務省に連絡があったのは8月23日夜。発見から引き渡しまで数カ月かかったことについて、松野博一官房長官は9日の記者会見で、「日露関係の悪化が何かしらの障害になったとは考えておらず、適時適切にやり取りした」との見解を示した。ただ、海保関係者は「ウクライナ侵攻などを巡る国際情勢の変化が影響した可能性は否定できない」とみる。【谷口拓未、木下翔太郎】