《天満カラオケパブ刺殺事件》「死刑をお願いします」宮本浩志被告(57)のあまりに“異様”な初公判 被害者への「僕はゴミなんだね」というLINEの意味とは

「もうええわ!」大阪カラオケパブ女性オーナー刺殺 容疑者がキレた“身勝手すぎる理由” から続く
9月16日、大阪地方裁判所・201号法廷に姿を現した宮本浩志被告(57)は、逮捕される直前となる1年3カ月前と比べて、やけに老け込んだ印象だった。
茶色がかった銀縁のメガネは同じだが、薄い頭髪は角刈りになって白髪が目立つようになり、真っ白な肌がやたらとたるんで見えた。以前はいつも仕事帰りのスーツ姿だったが、この日は黒を基調とした半袖のスポーツウエアを着込んでいたことも、そう思わせた要因かもしれない。マスクの下部分からは、不似合いな無精髭も飛び出していた。
宮本被告は2021年6月11日、一方的に好意を寄せていた大阪・天満のカラオケパブ「ごまちゃん」のオーナーである稲田真優子さん(当時25歳)の顔面を殴打し、粘着テープで縛り、その後刃物で首や胸など10箇所以上を刺して殺害した罪に問われている。
私は稲田さんと友人関係にあったことから、被告とも何度か店で顔を合わせていた。
最初に見かけたのは、稲田さんの前職場であるカラオケバーだ。宮本被告はいつも19時頃に来店し、店内が混み合っていなければカラオケを独占して下手なアニメソングを歌い続けていた。常連客から「まゆ太郎」と呼ばれて親しまれていた稲田さんが接客で忙しかった日には、相手にしてもらえないことに苛立ったのか、テーブルを叩いて突然「もうええわ」と叫び、店を出て行く姿を目撃したこともある。
半年で83回の来店、そして膨大なLINE
彼女が長年の夢だった自分の店「ごまちゃん」を昨年1月に天満でオープンさせてからも、店で何度か宮本被告の姿を見かけた。コロナ禍でアルコールの提供を中止し、時短営業せざるを得なかったまん延防止重点措置の時期は客足が少ないこともあってか、被告は異常なまでの頻度でお店に通っている。
2021年の1月は14回、2月が18回、3月が22回、4月が9回、5月が13回、そして6月が7回と、オープンからおよそ5カ月の間に計83回も来店しているのだ。4月が少ないのは、稲田さんが体調を崩して店を休んでいたからと思われる。
2日に一度のペースで店に足を運ぶだけでなく、LINEでのメッセージや電話の頻度も常軌を逸している。
今年8月末、警察から遺族の元に戻ってきた稲田さんのスマートフォンには、宮本被告から届いた大量のLINEが残っていた。私は遺族の許可を得て事件当日のやりとりから遡っていった。「おはよう」の挨拶から、その日の天気予報、昼食の報告などの一方的な連絡が続き、稲田さんは時折返信するのみ。事件直前の3日間だけで、その数は数十通にのぼっていた。
また、執拗なまでのLINEのメッセージがなかなか既読にならなかったり、稲田さんが電話に出ないことが続くと、「僕はゴミなんだね」「ゴミなりに接するようにしますね」とすねるような一面も見せていた。
事件から1年3カ月が経過した9月16日の初公判は、衝撃の幕開けだった。
証言台に立った宮本被告は、大寄淳裁判長の問いかけに冒頭から無言を貫いた。
裁判長 名前を言ってください。

被告 ……。

裁判長 名前を言ってください。

被告 ……。

裁判長 生年月日はいつですか。

被告 ……。

裁判長 名前を言うつもりはないということですか。

被告 ……。

裁判長 本籍、住所、職業についてもお話しになるつもりはないということですか。

被告 現住所は大阪拘置所です。

裁判長 お名前や生年月日は述べてもらえませんか。

被告 何か意味がありますか。儀礼的なことであれば抜かしてください。
「判決は死刑をお願いします」「どなたからの質問に対しても受ける気はありません」
ここで被告人側の弁護士が「ひとつ、確認してよろしいでしょうか」と裁判長に断りを入れ、証言台の被告のもとへ歩み寄って何やら耳元で囁く。そして、再び裁判長からの問いかけが続いた。
裁判長 名前を言ってください。

被告 記載されているとおりです。

裁判長 生年月日もそうですか。

被告 おそらくそうです。

裁判長本籍も起訴状に書かれている内容と変わりありませんか。

被告 はい。

裁判長 職業は現時点では無職ですか。

被告 はい。
その後、検察官から公判前整理手続きの内容が読み上げられ、裁判長は証言台に立っていた宮本被告に対し「被告人には黙秘権があります」と告げた。すると宮本被告は突然、堰を切ったように口を開いた。
被告 えーっと、裁判員の方にお願いします。判決は死刑をお願いします。裁判官に事前にお願いしたかったのですが、お伝えすることができないということで今、お伝えしました。検察には事前に論告求刑で死刑をお願いして欲しいことは伝えております。
そして、こう続けた。
被告 被害者家族の意図を汲むように、ぜひとも死刑を求刑していただきたいと思います。私については、いかなるどなたからの質問に対しても受ける気はありません。弁護人には、反対尋問もいっさいしないようにお伝えしております。
罪状に関しては黙秘を貫く一方で、宮本被告は自ら極刑を裁判員に求めたのだ。遺族側の弁護士も「こんな話は聞いたことがありません」と口にした。また、死刑を求める被告に対し、被告側弁護人は「犯人性を争う」と発言した。これはつまり、無罪を主張するということだ。
初公判の前々日、友人だった稲田さんに線香をあげようと、実家を訪ねた。だが、そこに父である峰雄さん(71)の姿はなかった。妻で、稲田さんの母である由美子さん(65)が話す。
「体調を崩していた夫に大きな病気が見つかって、入院しているんです。まゆっち(真優子さん)の事件の心労が影響しているんだと思います。私たち家族の中から、ふたり目の被害者が出てしまうかもしれない。いち早く罪を認めて、裁判が終わることを祈っています」
稲田さんの兄「おそらく死刑判決が出ることはないでしょう」
被害者遺族は、初公判を前に裁判が長期戦になることを覚悟していた。しかし宮本被告が自ら死刑を求める不可解な展開に遭遇し、まだ頭の整理がついていないという。稲田さんの兄の雄介さん(30)は言う。
「被告の様子を法廷で見る限り、控訴しない可能性もありますよね。裁判の決着に、父親が間に合うかもしれない。ただ、おそらく死刑判決が出ることはないでしょう。それにたとえ有罪判決が出ても、黙秘のままでは真実が明らかになるわけではない。やはり、被告には真実を語って欲しい」
10時に始まった公判の冒頭で死刑を求めた宮本被告はその後、16時半の閉廷まで一言も言葉を発しなかった。しかし、退廷する際に手錠や腰縄をかけられる宮本被告の手はかすかに震えていた。
(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))