18日夜から19日にかけて「過去最強クラス」の台風14号が九州を縦断し、猛烈な風雨に見舞われた人たちは自宅や避難所で眠れぬ夜を過ごした。一夜明けた19日朝からは各地で冠水や土砂崩れの被害が明らかになり、宮崎県都城市では水没した車で見つかった60代男性が死亡。同県三股町では40代男性が土砂崩れに巻き込まれ発見されたが、死亡が確認された。天気は20日以降回復するが、大雨で地盤が緩んでいることから気象庁は引き続き、土砂災害への警戒を呼びかけている。
1級河川・大淀川が流れる都城市北東部の高城(たかじょう)町穂満坊(ほまんぼう)地区。19日午前8時ごろ、見回りをしていた地元消防団が、川沿いの冠水した農地に取り残された車を発見した。「中に誰かいるのでは」。市消防局員が確認したところ、近くの会社員、山下悟さん(68)が見つかり死亡が確認された。同市では19日午前0時過ぎまでの24時間で、例年9月の1カ月分の倍に近い538ミリの雨が降っていた。
三股町では山林の斜面が幅約15メートルにわたって崩れ、作業場として使われていた建物が倒壊しているのが19日朝に見つかった。林業関係の中倉浩二さん(41)=同県西都市鹿野田=が巻き込まれたとみられ、町は同日午前10時、自衛隊に災害派遣を要請。地元消防と県警も一緒になって捜索し、夕方に中倉さんを掘り起こしたが助からなかった。
同県西都市の東部では広範囲にわたって冠水し、集落の計約50世帯が孤立。地元消防団員がボートで救助する事態になった。同市右松地区で1人暮らしする清野房俊さん(85)は18日午後6時ごろ、異変に気づいた。玄関ドアの隙間(すきま)からみるみる泥水が入り、あっという間に床下20センチの高さに。着の身着のままで団員に背負われてボートに乗り、避難所の小学校に身を寄せた。「子供の時分に畳を上げた記憶があるが、それ以降は初めてだ」
「急激に水かさが増して恐怖を感じた」と消防団員で大工の菊池将太さん(23)。お年寄りを背負って消防のボートや車両に運ぶ際は濁流の流れが速く、足を取られないよう注意したという。団員3年目で「こんな災害は初めて。避難させることができてよかった」と胸をなで下ろした。
鹿児島市高麗町の19階建てマンションの建設現場では18日午後、工事用のクレーンが先端部(地上高四十数メートル)で折れて垂れ下がった。市消防局は周辺を立ち入り禁止にし、近くの住民に避難を呼び掛けた。ワイヤで応急固定し、19日夕に撤去。けが人はなく、近くの飲食店主(48)は「無事でよかったが、町中でこんなことが起き、とても怖い」と驚いた様子だった。
鹿児島県鹿屋市のパチンコ店「ロイヤルモナミ」では、ガラス製の大型壁面(縦5メートル、横8メートル、厚さ2センチ)が強風で大破。一夜明けた19日午前、従業員らが割れたガラスの片付けなどに追われた。17日夜から台風警戒で泊まり込んでいた羽子田秀人店長(59)によると、18日午前9時過ぎ、店内の様子を見に行ったら割れていたという。「こんなことは初めて。お客さまのために早く再開したい」と話していた。
北九州市戸畑区では、ビル屋上の看板が表の通りに向けて倒れかかった。近くで飲食店を経営する60代女性は「風が強かったんだなと実感した。駅に近く交通量も多いので、被害が少ないことを願いたい」と心配そうだった。【塩月由香、梅山崇、新開良一、林大樹】