名古屋市北区の名古屋高速道路で大型バスが横転、炎上し9人が死傷した事故は、22日で発生から1カ月。運転手が死亡したほか、車内外の様子を記録したドライブレコーダーも焼失したとみられ、原因究明は長期化する見込みだ。一方、今回の事故では、横転したバスから避難するための非常口の設置場所なども課題として浮上している。
「耐火性、耐水性が必要」指摘
事故は8月22日午前10時過ぎ、同高速小牧線の豊山南出口付近で発生した。バスは右側の側道を走行中、何らかの理由で左に寄っていき、側道と本線を隔てる分離帯に衝突。運転手と乗客の計2人が死亡し、乗客ら7人が軽傷を負った。
これまでの捜査で、目立ったブレーキ痕や急ハンドルを切った形跡がない▽現場の数百メートル手前から不安定な走行をしていた▽衝突時は時速60キロ前後だった――ことなどが判明している。バスの運行会社「あおい交通」(愛知県小牧市)によると、運転手は昨年10月と今年4月の健康診断や、乗務前のアルコール検査で異常は見つからなかった。
愛知県警は、焼けた車体の検証作業をしたほか、運行会社への家宅捜索で押収した資料や乗客らの目撃証言、周辺を走行していた車のドライブレコーダーなどから、事故直前の運転手に何があったかを調べている。だが、運転手の死亡に加え、車体が激しく炎上したため証拠の収集は困難となった。県警幹部は「分からないことが多く、捜査には時間がかかる」と明かす。
バスのドライブレコーダーは、外部のサーバーに映像を記録する「クラウド型」ではなかった。SDカードを挿入した機器本体も見つからず、焼失した可能性が高いという。神奈川大工学研究所の堀野定雄・客員研究員(人間工学)は「走行時の様子が分からなければ再発防止策を講じることも難しい。コストはかかるが、航空機の飛行状況を記録するフライトレコーダーのように、耐火性や耐水性に優れたドライブレコーダーが必要ではないか」と指摘する。
非常口の設置場所にも課題
また、今回の事故は、避難経路の確保についても課題を残した。捜査関係者によると、バスは本線上で横転した後、前輪近くに設置されたタンク内の燃料に引火し、火は数分で全体に燃え広がったとみられる。
国が定める道路運送車両の保安基準は、乗車定員30人以上の車両の場合、後方か右側面に非常口を設置することを義務付けている。しかし、バスは車体の左側を下にした状態で横転。非常口が真上になり、避難経路として機能しなかったとみられる。前方から火の手が迫り、乗客は間一髪で最後部の窓から避難した。
鉄道やバスの運行に詳しい鉄道ジャーナリストの渡部史絵(しえ)さんは、欧米で使われているバスや、車両をつなげた「連節バス」の中には、横転事故を想定して天井に非常口が設置された車両もあると指摘。「今回の事故のような万が一の事態に備え、天井にも非常口を設置することや、窓ガラスを割るハンマーを備え付けることを検討してほしい」と話した。【熊谷佐和子】