「侵略カマキリ」捕らえた 四国で初確認、10歳と6歳の兄弟お手柄

見つけたカマキリは恐るべき「侵略的外来種」だった――。動画投稿サイト「ユーチューブ」で得た知識を生かして、愛媛県大洲市の小学生と幼稚園児の兄弟が2022年9月、近縁の在来種を駆逐すると懸念されるムネアカハラビロカマキリを捕獲した。昆虫研究者が確認し、「四国では初めてだ」と大興奮。今後の拡大防止にもつながる「お手柄」の兄弟を記者2人が訪ね、大人も顔負けの「昆虫博士」の見識に驚いた。【鶴見泰寿、太田裕之】
「うそでしょ! いるはずがない!」
9月14日の下校時。愛媛県西部の山あいにある大洲市立平野小学校(児童数71人)の運動場で、5年生の兵頭謙芯(けんしん)さん(10)が3回も絶叫した。同じ敷地内の市立平野幼稚園に通う弟康介君(6)が手にしていたプラスチックケースの中のカマキリに目を見張った。
在来種のハラビロカマキリより迫力のある体つき。胸から腹にかけての裏面がオレンジに近い赤色で、前脚のカマの基節に黄色い突起が8個ほどある。動画で見ていた通りの特徴は、四国にはまだいないとされていたムネアカハラビロカマキリだった。
掃除時間中に「ムネアカや」、興奮と恐怖
その日、康介君は幼稚園での掃除の時間に手洗い場の窓の裏側で見つけた。「ムネアカや」。興奮と同時に恐怖も感じた。採取の際にカマで指を傷つけられ、出血することがあると知っていたからだ。先生に知らせて捕獲してもらった。「ここまで侵入しているのか」。自宅に持ち帰った兄弟は「自然界に逃がしたらダメだ。死ぬまで飼う」と誓った。
その1週間後、謙芯さんも別の個体を発見する。学校の「ふるさと学習」の授業で周辺の水生生物を調査していた際、ムネアカハラビロカマキリが飛んできた。講師として同行していた環境マイスターの男性に「四国では見つかっていない外来種です」と伝え、男性が撮影した画像を愛媛大学農学部の吉富博之准教授(昆虫学)が識別。同28日には吉富さんも現地で採取し確認した。
ムネアカハラビロカマキリは中国原産とされ、日本では中国から輸入した竹ぼうきに付着していた卵鞘(らんしょう)により広がったとみられている。体長約8センチで在来種より大きく、攻撃性が髙いとされる。在来種と比べて卵の数が多く、ふ化時期も早くて繁殖力が強い。見つかった地域では在来種が見られなくなっているという。
2000年代前半から国内で確認
国内では2000年代前半から確認されるようになり、関東、中部、関西、中国地方、九州などに拡大。吉富さんによると、愛媛県が加わって27都府県となったが、「四国では今回の発見により、侵入初期に対策を講じることで定着を阻止することができるかもしれない」という。
吉富さんも称賛する2人の観察力はどのように育まれたのだろうか。謙芯さんは幼稚園児の頃から昆虫を採集したり、飼ったりしてきた。兄を慕う康介君もやはり昆虫好きに。「謙芯は低学年のころ、虫を手で包んだままバスで帰ってきたこともある。康介も今は毎日のように何かをつかまえて帰ってくる」と母八重さんは話す。
将来の夢は「昆虫博士」
謙芯さんはつかまえた昆虫の種類を図鑑で調べるため早くから片仮名を覚え、さらに詳しく調べるなど学習にも結びつけてきた。八重さんは昆虫が苦手だが、「(子供が)自分でエサをあげられる虫だけ」という約束で飼育を容認。夢中になって家にも次々と持ち帰る兄弟を、両親も見守っている。
生き物の中でも昆虫が一番好きという謙芯さんは「生態が面白く、しかも身近にいる」と魅力を語る。「兄弟で一緒に図鑑を見て生態を調べるのも楽しい」。教科でも理科が好きで将来は「昆虫博士になりたい」。
カマキリは22年夏から飼うようになった。その参考にと、ユーチューブで人気の昆虫採集チャンネルを兄弟で視聴。ムネアカハラビロカマキリもたびたび紹介され、特徴や問題点を学んだ。
「ムネアカはオスが国産のハラビロカマキリのメスと交尾しようとして、そのメスの交尾器を壊してしまう。国産のメスは死ぬか、生き残っても交尾できなくなって国産がいなくなると聞いた」。そう語る謙芯さんは「四国で初めて発見したことはうれしいけど、外来種に増えてほしくはない」と冷静だ。康介君も「僕が捕まえたのはオス。メスもいたら大変なことになる」と話す。
「外来種については研究者や愛好家が気をつけて見ているが、広く異変に気付けるのは地域の自然や生き物、環境に注意を払っている市民の目だ」と吉富さんは語る。「今回は子供たちが気付き、その情報が専門家に共有されたことが幸運だった」と感謝。「昆虫は未解明なことが多い。これからも身近な自然に触れてよく観察し、いろいろな新発見をしてほしい」と期待する。
今回の発見は学校でも話題になり、他の子供たちもカマキリに興味を示すようになった。自らもムネアカハラビロカマキリを捕獲した山田也寸志(やすし)校長は「今後も好奇心を持って、いろんなことを調べることを続けてくれたらうれしい」と話した。