来年3月27日に予定される文化庁の京都移転まで半年を切った。関西の振興につながるとの期待が高まる一方で、職員を京都に移して実施したシミュレーションでは、国会対応などで東京に戻らざるを得ないケースが頻発するという結果が出ており、リモートで業務できる体制の整備が課題になっている。(上村真也)
文化庁は、京都市上京区にある改修中の旧府警本部本館(3階建て)と、新築される隣の新行政棟(6階建て)の一部に入る。両棟では現在、内装工事が進められ、今年12月に完成する予定だ。
移転が決まったのは、第2次安倍政権時代の2016年3月。東京一極集中を是正する「地方創生」の一環で、中央省庁の地方移転は明治以来初となる。
九つある課のうち、著作権や国際交流を担当する四つの課は東京に残るが、人事や会計を担う政策課、文化財や宗教法人を担当する五つの課が移転対象となり、全体の約7割の250人程度が京都に移る。長官と2人の次長のうち1人は京都で勤務する。来年3月27日には長官ら一部が先行して京都で業務を始め、5月15日に移転が完了する。
しかし、移転後に業務をスムーズにこなせるかは不透明だ。
文化庁が20年10月5日~11月20日に、移転予定課の全職員に交代で試験的に京都で勤務(34勤務日)させたところ、オンライン会議などリモートで対応できたのは、「国会議員への説明」が41回中5回(12・2%)、「政党の会議への参加」が25回中5回(20%)、他省庁との折衝など「予算に関する業務」が61回中9回(14・8%)だった。残りは、重要案件で丁寧な説明が必要だったり、取り扱いに注意がいる情報を扱ったりしたため、東京に出張するなどして対面で対応したという。
次長の京都での勤務日数は34日中16日、審議官は6日だった。法案作成に関わった課長2人は機密性の高い作業でもあり、全期間、東京で勤務したという。
リモートの対応では、機材やスペースの不足、設定や操作についての習熟度の差が課題として挙がった。国会議員への説明や政党の会議では、東京にいる文化庁職員が24インチのモニターやタブレット端末を会場に持ち込むこともあったという。
この結果を受け、文化庁は他省庁や国会にリモートでの対応に理解を求めるとともに、東京・京都の双方にテレビ会議システムなどを整備するほか、東京で出張者向けの執務スペースを確保するという。
来年度予算の概算要求では、京都―東京間の出張費4700万円を含む2億3100万円の職員旅費を計上。22年度の当初予算額1億5400万円と比べ、大きく膨らむ見通しだ。
岸田首相は5月に現地を視察した際、「デジタル化を進めることで、国会対応などの課題にしっかりと対応していきたい」と述べた。
同志社大の八木
匡
(ただし)教授(文化経済学)の話「政府機関でもオンライン業務の範囲は拡大しており、文化庁の移転はコストやデメリットを減らすモデルケースになるべきだ。京都から日本の文化を世界に発信する重要性を多くの人に理解してもらう必要がある。文化財の保護だけでなく、文化の創造的な活動を活性化させ、京都・関西の競争力強化にもつなげてほしい」
「文化首都」へ地元は期待
文化庁移転の効果として地元が期待するのは、「文化首都」としての発信力の強化だ。
京都は多数の世界遺産や文化財を有し、茶道や華道、花街といった伝統文化、西陣織などの伝統産業が息づく。文化庁は移転を機に、文化財を活用して観光振興につなげるなど新たな文化行政を進めるとしている。文化に携わる交流人口の増大や人材の育成、関連イベントの開催による経済効果も含め関西全体の振興につながると期待される。
京都府と京都市、京都商工会議所など19団体は6月、連携組織「文化庁京都移転プラットフォーム」を設立。「文化庁 京都へ」の文字をあしらったロゴマークを駅や店舗に掲示したり、記念イベントを開いたりといったPR活動に取り組む方針を決めた。
西脇隆俊知事は9月30日の記者会見で、「コロナ禍で人が集まるイベントはやりにくく、積極的な活動ができていなかった。文化庁とともに移転の機運を高めていきたい」と強調した。