社説[旧統一教会調査へ]首相の本気度問われる

被害者救済の第一歩だ。長年の被害や、信者の両親を持つ「2世問題」などの深刻さを考えれば一刻の猶予もない。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡り、岸田文雄首相は、宗教法人法に基づく「質問権」を行使するよう関係閣僚に指示した。
実現すれば、法に基づく調査権限の行使は初めてだ。
衆院予算委で岸田首相は「多数の被害者、困窮や家庭の崩壊が生じ、救済が十分進んでいないことを政府として重く受け止めている」と調査を判断した理由に言及した。
宗教法人に対する調査権限は、オウム真理教による事件を受けて1996年の法改正で新設された。宗教法人に解散命令の請求などに該当する疑いがある場合、法人の業務や管理運営について報告を求めたり、質問したりできる。
前例のない調査の結果次第では、教団の解散命令請求も視野に入る。実態解明に向け徹底的な調査が求められる。
旧統一教会は、霊感商法で高価なつぼや印鑑を買わされたなどの被害が相次ぎ社会問題化している。被害は過去35年間で約3万4千件、総額で1237億円に上るという。
しかし、岸田首相はこれまで「信教の自由」を理由に命令請求には慎重だった。
憲法が保障する権利に配慮した形だが、組織的な不法行為を認めた民事裁判が繰り返されてきた実態を見れば、調査権限の行使は当然だ。違法行為の有無など問題点をきっちりと洗い出してほしい。
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岸田首相が一歩踏み込んだ背景には、消費者庁の有識者検討会が調査権限の行使を提言する報告書をまとめたことがある。
検討会はほかにも、消費者契約の取消権の期間の延長、寄付や献金の禁止規範の拡大など、現行法の改正や新法制を求めた。
マインドコントロールから抜け出すには相当の時間を要するといわれている。新たな被害を出さないためにも実態に即した法整備が必要だ。
岸田首相は、日本司法支援センター(法テラス)の相談体制の強化にも言及した。
2世問題への対応では、文科省が、小中高校のスクールカウンセラーらと協力した相談体制を充実させるよう求める通知を都道府県の教育委員会などに出した。
被害が元信者や、その家族の生活全般に及んでいることを考えれば、関係団体が連携した支援体制が欠かせない。
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旧統一教会を巡っては、長年認められなかった名称変更を2015年、当時の安倍晋三政権下で文化庁が変更申請を受理した経緯がある。
霊感商法問題などに取り組んできた弁護士らは、名称変更によって被害の拡大につながったと指摘している。
自民党の独自調査によると安倍派は、教団側と接点を持つ議員が最も多かった。そうした関係が、名称変更に影響していたとしたら問題だ。
多数の国会議員、地方議員と教団との接点が分かっている。接点に何らかの法令違反はないのかも詳細に調べるべきだ。